「野生の教育論」は、野村克也氏の知恵と経験の集大成 --- 内藤 忍

アゴラ

野村克也氏の新刊『野生の教育論』を読みました。


野球界の指導者が書いた本と言えば、最強なのは落合博満氏の「采配」です。こちらのブログで紹介したこともあるビジネスパーソン必読の名著ですが、野村氏の新刊もこれに匹敵する内容の詰まった価値ある一冊だと思います。

野村氏と言えば「ID野球」という言葉に代表されるように、頭を使った野球というイメージが強くあります。確かに、身体能力や野球の才能に100%恵まれなかったにも関わらず三冠王を取り、名捕手として活躍した実績の裏には、血のにじむような努力だけではなく、頭を使った野球への取り組みがあるのです。84ページからの記述にはスコアラーに頼んで配球を読む精度を高める努力をした話が紹介されています。

しかし、野村氏が現役時代、そして監督として華々しい実績を残すことができた最大の理由は頭脳よりもむしろ「悔しさとコンプレックスをバネにした闘争心」なのです。

野球の成績には申し分なかったにも関わらず、1977年に女性問題を理由に、選手兼任監督を電撃解任。「おれをクビにしたことを南海に後悔させてやる!」(36ページ)と前の球団を見返してやるという悔しさを持った。それが45歳まで現役を続ける原動力になったと告白しています。

また、野村氏は野球エリートではなく「テスト生上がり」ということにもコンプレックスを持っていました。甲子園で活躍したライバルを見て、「何クソ」と努力を続け、結果を出したのです。

野村氏が監督として選手が伸びるかどうかを判断する基準は、身体能力でもなく、頭脳でもなく、素直さでもありません。その選手が打席で三振したりピッチャーとしてKOされて、ベンチに戻ってきた時の表情でわかるというのです。

「こんな悔しさはもう味わいたくない」。そんな負けじ魂を前面に押し出している選手はまず間違えなく期待できると言います。

悔しさから生まれる野生の闘争心に火をつける。野村氏の野球は「闘争心×教養」から生まれているのです。

予告先発に対する批判や楽天の采配や直球勝負のオールスターに対する疑問など野村氏の本音がしっかりと書かれ、野球ファンにもたまらない内容ですが、仕事や生き方に悩んでいる人にも大きな勇気を与えてくれます。

年末年始のまとまった時間に、じっくり読んでみることをおススメします。

編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2013年12月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。