「ソチ冬季五輪」不参加表明に問う --- 長谷川 良

アゴラ

ソチ冬季五輪大会(来年2月)はロシアのプーチン大統領の悲願だ。開催誘致から今日まで巨額の資金を投入してきた。開催日まで「あと何日」と指折り数えながら待ってきた。冬と夏の五輪大会の違いはあるが、2020年東京夏季五輪大会を控える日本人にはプーチン大統領の心の高ぶりは分かるのではないか。

ところで、どうしてこれほどアクシデントや不祥事が頻繁に起きるのだろうか。五輪の聖火リレー中、聖火が数回消え、歩道にいた男性がライターで火を灯すシーンがネット上に流れた。聖火リレー・コースのダゲスタンでは、安全問題などから走行距離を短縮。ここにきて聖火リレー参加者(73)が15日、走った直後、心臓発作で亡くなるという悲しい出来事が起きた。


あれも、これも生みの苦しみと受け取ることはできるが、五輪組織委員会関係者は頭を悩ましているだろう。聖火の件では、ロシアの名誉のために付け加えると、中国の北京夏季大会の聖火リレーでもあったという。そのうえ、ロシアの冬は強風だから、聖火リレーには厳しい気象事情がある。ギリシャの火が何度も消えてしまったことは残念だが、致し方がなかった面がある。

開催日が近づくと、試練は国内だけでなく、国際社会からも来た。旧東独の牧師出身で人権活動家だったガウク独大統領は8日、ソチ冬季五輪大会の参加を見合わせると表明したのだ。理由はモスクワの人権蹂躙への抗議だ。独大統領に触発されたのか、欧州連合(EU)の人権問題担当レディング副委員長が10日、同じように参加を見合わせること示唆したばかりだ。そして15日、フランスのファビウス外相が同国民放ラジオの中で、「来年2月のソチ冬季五輪の開会式に政府幹部は出席しない」と述べている。その理由はガウク独大統領と同じだろう。同性愛など少数派や反体制派への人権弾圧への抗議だ。

ソチ大会参加ボイコットの波は今後も波及していく可能性がある。プーチン大統領も心穏やかではないだろう。ロシアの愛国者ならば「人権弾圧はどの国にもあることだ。そのうえ、スポーツの祭典の五輪大会に政治的な問題を絡ませるべきではない」といった反論が当然出てくるだろう。

ロシアの場合、五輪大会開催は大きな夢だ。旧ソ連時代のモスクワ大会(1980年7月)では、ソ連軍のアフガニスタン侵攻などの理由から米国ら約50カ国が参加をボイコットした。ソチ大会でも同じように、国内の人権問題を理由に参加ボイコットの危険にさらされているわけだ。

不思議な点は、北京五輪大会(2008年8月)では政治家たちのボイコット表明は皆無ではなかったが、その声は小さかった。記憶に残っているのは、米俳優リチャード・ギア氏が大会ボイコットを呼びかけたことぐらいだ。ロシア人だったら「なぜ北京ならよくて、ソチはダメか」と文句の一つでも吐きたくなるだろう。

人権蹂躙問題では中国はけっして引けを取らない。臓器の不法売買、チベット人など少数民族への弾圧、メディアへの検閲など、数え出したらきりがない。その国で開催された五輪大会に参加し、ソチ大会は不参加というのでは、少なくとも一貫性に欠ける。それとも、ロシアは外圧に弱い、と考えているのだろうか。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。