堀江氏のツイート炎上で考える日本人の「人様に迷惑をかけない教」

本山 勝寛

年末年始の恒例行事なのか、公共交通機関のマナーに関連する騒動とツイートの炎上が世を賑わせた。その一つが、NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹氏と堀江貴文氏とのツイッター上でのやり取りから発生した、新幹線車内で泣く子どもに対して舌打ちをして「うるせーな」と言った女性に対する賛否について。

駒崎氏:今、新幹線で後方の席の子どもが泣いてて、隣の席の女性がうるせーな、って言いながら舌打ちしたんだけど、そういう人は新幹線自由席じゃなく、車で移動すべきだ。公共交通というのは、老若男女、色んな人が乗るもの。公共圏は、我々が当事者意識と寛容によって生み出すものだと思う。

堀江氏:舌打ちくらいいいんじゃないかと思ったりするwww

駒崎氏:いや、うるせーな、とか言われると子持ちには地味に傷つくもんすよー。

堀江氏:だから? 泣いちゃ駄目ってこと身に沁みてわかるんじゃないの?

この後、堀江氏が親は子どもが泣かないように可能な限り努力するべきで、たとえば睡眠薬を飲ませる方法もあるといったことをツイートとしたところ、さらに炎上具合がヒートアップした。

一連のやり取りと他のユーザーのコメントは、togetter「子供が車内で泣いて(騒いで)いたら 舌打ちぐらいはしてもいい?」にまとめられている。また、それぞれの立場の意見の相違の原因については、小川たまか氏がYahoo!個人の記事でよくまとめており、私も同じような意見だ。要はお互いの立場に対して想像力を働かせて、もう少し気遣いをもちましょうというのが理想論であって、そうは言っても人間、舌打ちが出てしまうこともあれば、子どもの泣き声にパニックと疲れでどうしようもなくなることもあるというのが現実なのだろう。

ここでは、一連の炎上騒ぎに対する具体的な評価はそのくらいにしておき、社会の縮図ともいえる公共交通機関でのマナーに対する考え方に表れる日本人の精神性について考えたい。

私がこの騒動で思い出したのは、少し前にネット上で拡散した「なぜ?海外ママが「日本の子育ては海外より10倍辛い」と語る理由」という記事だ。その記事にはこう書かれている。

日本を訪れた外国人は「日本人はとても親切だった」と褒め称えるのに、なぜその日本人はこんなにも子連れに冷たいのだろうか。少子化で子どもが少ない今だからこそ、子どもを大切にしようと暖かく見守る社会ができあがってもおかしくないはずなのに、なぜ日本の子ども連れは邪魔者扱いされてしまうのだろうか。
一つには日本社会が「他人に不都合を与える人」に対して異様に厳しい社会だからではないかと思う。相手の迷惑になりたくないから、子連れであろうとなかろうと関係のない人には話しかけない。母親のほうは泣きだす子どもを連れていることがまるで何かの罪のような、肩身の狭い思いを強いられてしまう。

そう、この「他人に不都合を与える人に対して異様に厳しい社会」というのは海外と日本を行き来するとよくよく感じるところで、つまり「人様に迷惑をかけない至上主義」が日本人にとっての最高の倫理になっているのではないかと思うのである。もちろん、これは日本人の美徳であり、利点でもあるわけで、他人を裁くために使わなければ、社会は一部うまく機能する。必ず列に並んだり、あれだけの満員電車に文句一つなく乗って通勤できるのは日本人だけなのではないだろうか。

ただ、実際には人様に迷惑をかけずに生涯を全うすることはほぼ不可能であり、人間は赤ん坊のときは泣いてわめいて迷惑をかけ、子どものときにはいたずら、いじめ、授業の怠慢、反抗期で迷惑をかけ、社会人になっても仕事に失敗したり、飲みつぶれて迷惑をかけ、親になったら子どものことで周りに迷惑をかけ、やがて歳をとれば皆が誰かの世話になるわけで、人間なんて意図せずとも人様に迷惑をかけながらお互い様で生きてるんじゃないだろうか。これまで、人様に迷惑をかけないで完璧に生きてきたと勘違いできたのは、どうしても迷惑をかけてしまう存在を施設や家庭のなかに押し付けて自分(あるいは公共社会)とは関係のない存在としてきたからではないか。

私は障害者団体の代表の方が、「日本は屈強な男性成人を前提にすべての社会が成り立っている」と語られた言葉が頭から離れない。世界には心身に何らかの障害のある方が10億人いるという統計があるが、人間みな一人では何もできない乳幼児として生まれ、やがて歳を取れば目や耳、足腰が不自由になる。そうであるなら、どうしても迷惑をかけてしまう状況に対して、もう少し寛容でありたい。

公共交通機関だけでなく、職場での妊婦へのマタハラや育休取得者に対する厳しい態度もそういった日本人の「人様に迷惑をかけない至上主義」から生まれているように思う。子どもが育てにくい社会になって少子化が加速しても困るし、日本人の四人に一人は高齢者でこれからもっと増えるわけだから、そろそろ「お互い様精神」とバランスよく成立させたらどうだろう。今よりも少しだけ息苦しくない社会になるのではないだろうか。
(導入の炎上案件とは直接関係のない話になったことはご容赦下さい。)

学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。