日本は「属国」から脱却できるのか

池田 信夫

靖国などの「歴史問題」について、頭の整理をしてみよう。戦後70年近くたってもこういう問題でもめ続ける原因は、ジョン・ダワーのいうサンフランシスコ体制にあると思う。新憲法の目的は、日本を無力化して二度とアメリカに宣戦できなくすることであり、サンフランシスコ条約は日本を「属国」にする不平等条約だった。


新憲法を受け入れたことは当時としてはやむをえない選択だったが、それを改正できないまま今に至ったのは日米双方にとって誤算だった。吉田茂も「第9条は間近な政治的効果に重きを置いたものだった」と語り、いずれ改正するつもりだった。それが日本人の平和ボケ体質にあまりにも適合したため改正できなくなり、米軍がいつまでも駐留せざるをえなくなった。

このため、日本は実質的に占領体制を継承したままになっている。特に日米地位協定で米軍基地について日本が国家主権を行使できないことは、独立国として異常である。これについて左翼は「憲法を守って基地を撤去しろ」というが、それは不可能だ。現状維持以外の政策として考えられるのは、図のように憲法を改正して日米同盟を維持するか、日米同盟をやめて自主防衛するかだろう。

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こう考えると、日本が取りうる安全保障政策の選択の幅は意外に狭い。安倍首相の考えているように憲法を改正して自前の軍備を増強することは、核武装を必要とするのでアメリカが拒否するだろう。安倍氏は昨年の訪米で議会演説を許されなかったが、朴槿恵大統領は議会演説で日本を攻撃した。アメリカは安倍氏を警戒しており、これ以上挑発するのは日米同盟を傷つけるおそれがある。

こういう属国状態はおかしいが、左翼はそれを一国平和主義で美化してきた。ネトウヨなどが騒ぐ原因も、こうしたナショナル・アイデンティティの混乱にあると思う。それに気づいた世代がナショナリズムに目覚めて政府や左翼の偽善に反抗することは、ある意味では健全だ。

しかし「靖国」やら「嫌韓」やらの感情論が先行するのはよくない。上の図のようなトレードオフを認識した上で、日本がどういうポジションを取るのか、合理的に考える必要がある。その場合、4象限のどこを取るかはいろいろありうるが、小選挙区制のもとでは1対1に対応させなければならない。

この図の「改憲/護憲」の軸がおおむね「右翼/左翼」に対応する。反原発や反秘密保護法など朝日新聞にあおられる人々は、何も考えないで「護憲・反米」のポジションを取っているが、これは展望がない。自民党主流の「改憲・親米」は矛盾しており、改憲すれば日米同盟は段階的に解消に向かうだろう。

この図では、自民党より右の「改憲・反米」があいているように見える。安倍首相は個人的にここをねらったものと思われるが、サンフランシスコ体制を正面から否定することは困難だ。米軍にただ乗りしてのんびりやっていく現状維持がいいのかもしれない――アメリカが許容してくれれば。