大麻合法化の“経済効果”論は危険 --- 長谷川 良

アゴラ

ウルグアイ議会(上院)は昨年12月10日、大麻(マリファナ)の栽培から消費まで合法とする法案を決定し、ムヒカ大統領の署名を受けて同関連法は発効した。その直後、米コロラドで大麻の販売と限定された量の消費を認めた。ウルグアイも米コロラド州も大麻合法化の主要な理由として「麻薬犯罪防止」を第一に挙げている。


中南米メキシコを例に挙げるまでもなく、麻薬組織とそれを取り締まる政府側の戦いは既に戦争状況だ。麻薬組織も武装し、政府軍と戦闘を繰り返し、毎年多数の犠牲者が出ている。

ところで、サンパウロ発時事の以下の記事を読んで少し考えさせられた。

「南米ウルグアイで、世界で初めてマリフアナの栽培、販売、使用を合法化する法律が成立した。米コロラド州でも1月から嗜好(しこう)品としてのマリフアナ販売を解禁。麻薬組織対策としての効果に加え、経済効果も期待できるとみられており、解禁を検討する他の国も動向を注目している。地元紙オブゼルバドールは6日、マリフアナ合法化を受け、イスラエルやカナダの製薬会社が大麻の大量購入を申し出ていると報じた。新たな産業振興のきっかけになるとも期待される」

ウルグアイの決定がどのような“経済効果”をもたらすか注目されている、という箇所だ。大麻を全面合法化することで麻薬犯罪組織への対策だけではなく、政府側に税収入が期待される。外国企業から大麻大量購入の話も飛んでくるかもしれないというのだ。

「大麻合法化の経済効果」を測ることはまだ時期尚早だが、政府側の税収入の増加は十分考えられる。一方、大麻合法化で若者たちの消費が増加し、健康に支障をもたらすかもしれない問題については余り議論を呼んでいない。

大麻の消費は脳神経に多大の影響を与えることは学問的にも証明されている。ウィーンに事務所を構える国際麻薬統制委員会(INCB)は「大麻には非常に危険な化学成分(カンナビノイド)が含まれている。例えば、テトラビドロカンナビノール(THC)だ」と指摘している。

麻薬をハードとソフトに分類し、ソフト麻薬は消費しても健康に影響がない、といった風潮があるが、INCBは「麻薬にはソフトもハードもない。両者とも心身に危険性がある。大麻の乱用は認識困難や精神的錯乱という症状をきたす」という研究報告を紹介している。

にもかかわず、ウルグアイ政府やその動向を注視する国々は大麻合法化の経済効果に関心を払い、大麻合法化による健康への影響を懸念する声はあまり聞こえてこない。

大麻合法化の是非を経済効果で判断すべきではない。税収入は増え、麻薬犯罪組織の活動が減少するかもしれないが、その代償として多くの若者が大麻中毒に汚染されていくならば、その国の未来は厳しくなる。社会が麻薬漬けになれば、医療費や犯罪も増加することは火を見るより明らかだ。

政策の是非を経済効果で測ることは便利だが、大麻の場合、経済効果以上に、健康への悪影響を第1に考え判断しなければならないはずだ。

グローバルな社会では、多様性という名の下で価値の相対化が加速してきた。ただし、大麻問題では「中毒性があり、健康を害する麻薬は絶対許してはならない」という一線を死守しなければならない。その一線を踏み越えれば、雪崩のように他の麻薬の合法化の道が開かれていくだろう。大麻合法化がもたらす経済効果云々は危険な話だ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年1月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。