「適正」な企業価値を考える --- 岡本 裕明

アゴラ

会社がM&Aなどで売り買いされる場合、会社の価値の算定をします。まさにあなたの会社はいくら、ということなのですが、この場合、上場会社、非上場会社、更には取引する間柄が第3者間かどうかによりその厳密度は大きく変わってきます。最近の株式市場をみながら、株価をベースに取引基準を決めるとすれば会社の値段は相当ぶれることになりそうです。


私が会社を買収した際、売主を代表し管理していた銀行さんから「当行も上場しており、株主もおりますので売買金額については株主に妥当性を持って説明できるものでなくてはなりません」との指摘もあり、不動産ならば市場価値、仕掛かり品は完成した際の価値をベースに現在価値に引き戻す、現金は現金といった具合に数字を並べた上で最後に買収する側のリスクテイク分を割り引く形で計算を引き出しました。買収資産によっては暖簾(のれん)という形で上乗せすることも多く最後、鉛筆をなめるのか、お土産をつけるのか、このあたりは買収する立場や状況により180度変化します。

また、上記の計算の妥当性を裏付けるため、第3者の査定を取るのも通常プロセスでそこから導き出される価値はかなり論理的で客観性を伴うものでした。

カナダでいわゆる税務関係の業務をする場合、最も注意を払わねばならないのは関連会社間取引でしょうか? 子会社、関連会社に市場価格より安く、あるいは高く売却した場合、利益が不公平に操縦されたとされ、税務署の「ご指導」を受けることになります。多分日本でもそうでしょう。その際の妥当な金額とは何かといえば、市場で取引されている他社の金額など客観性をもったもの、とされています。

もっとわかりやすいものですと子会社への貸付金利。いわゆる市中金利、あるいは、第三者間の貸付をベースに考え、不当に高かったり、低かったりすれば「不正」とみなされてしまうのです。ある意味、取引において関連会社間ほど肩身の狭い思いをするものはなく、第三者間はかなり幅を持たせた取引が可能ということなのです。

税務当局はそれが分かってるにもかかわらず、「妥当性」という言葉で押し切るため、多くの「修正申告」が要求される一因になるのです。

例えば、SNSのミクシィという会社があります。この会社の価値はいくらでしょうか、といった場合、つい3か月前と今では5倍ぐらいの差があります。なぜなら、株価が急騰したことで時価総額がその分上昇してしまったからです。ところがこの会社は赤字拡大方向にあり、どう考えても3か月前の株価すら怪しいのにゲームがヒットしたことで株価が乱舞しているのであります。勿論、収益への影響は今の時点で分かりません。つまり、株価の市場価値ほど人間の「私情価値」が入る世界はない、ともいえるのでしょうか?

会社の価値の算定は上場会社の場合、株価が一番手っ取り早く、それ以外に利益、資産、キャッシュフロー、特許などから目的に応じて金額を算出するのですが、そこに競合相手などいれば、あとはエイ! ヤー! ののれん代の上乗せとなり、全くもって論理性はそのあたりから欠如してしまいます。株価に基づく取引でもM&Aの場合、現在の株価の○割上乗せ価格で、といった具合に欲しい、売りたいという欲情が先行している点において第三者間取引は自由気ままでうらやましいのであります。

税務署は一定の取引ルールを設定し、その中で税金を徴収するという仕事をしておりますが、第三者間取引においては需要と供給という自由なる市場性が支配するため、それがどれだけいびつな取引であったとしても法的違反が背景にない限り、特別なる税金を課すことは出来ません(キャピタルゲイン課税は別とします)。ところが、関連会社間、会社と役員や従業員といったような関連者同士の取引だけは公正なる市場、相場を要求し、追徴のチャンスを虎視眈々と狙っているとのです。

モノの価値はいくらか、何が妥当なのか、という尺度を考える時、時として何が正解なのか、案外、分からなくなるというのが現実の世界なのかもしれません。私も過去、何度か税務調査は受けたのですが、最後、担当者と電話越しに「いくらで妥協しませんか?」という折衷で終結したこともあり、つまるところ、厳密な答えなどどこにもない、ということなのかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年1月14日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。