ハンガリーの野心的な原発政策 --- 長谷川 良

アゴラ

ロシアとハンガリー両国は1月14日、ハンガリーの首都ブタペスト南部約100キロにあるパクシュ(Paksi)原子力発電所に新たに2基の原子炉を建設する協定に署名した。署名式典はプーチン大統領とハンガリーのオルバン首相の間でモスクワで行われた。

ハンガリー日刊紙によると、総工費は約100億ユーロと推定、ハンガリーにとって、欧州連合(EU)加盟後の最大プロジェクトとなる。総工費はロシア側が80%相当の借款を供与、残り20%はハンガリーが自己負担する。


両国は過去1年間、交渉を重ねてきた。同プロジェクトにはフランス、米国、韓国、日本の原発企業が関心を示してきたが、ハンガリー政府は請負企業選出では公式の入札を避けた。その理由は、「2基の原子炉建設は既存の原発の増築」とういう理由からだ(独週刊誌シュピーゲル電子版)。新原子炉の操業は2023年以降と予想される。ロシアの国営原子力企業「ロスアロム」社が建設を請け負う。

パクシュ原発(旧ソ連側重水炉で1982年に操業開始)はこれまで約2000メガワット/日の電力を生産してきた。同国総発電量の40%に当たる。同原発の寿命30年は経過したが、寿命延期を決定する一方、新しい原発の建設計画を進めてきた。ハンガリーは将来、国内需要エネルギーの約80%を原子力エネルギーでカバーする計画だ。

ハンガリー側は「わが国の企業にも30億ユーロから40億ユーロの受注が生まれ、1万人の新しい雇用が生まれる」と期待している。一方、同国の最大野党、社会党は「わが国のエネルギー政策がロシア依存を一層深める」として懸念を表明している。

ところで、ハンガリーの新原子炉建設に懸念を表明しているのは同国の社会党だけではない。隣国オーストリアでも「ハンガリーの新原子炉建設」に危惧の声が聞かれる。

オーストリアは1999年、欧州で唯一、「反原発法」を採択し、原発を建設する道を完全に塞いだが、同国の国境から僅かしか離れていない東欧諸国で旧ソ連型原発が操業中だ。原発事故が生じれば、その放射能は国境を超えてオーストリアにまで及ぶことは確実。

例えば、チェコは目下、原子力エネルギーの促進を進め、テメリン原発で新たに2基の原子炉を増設中だ。そして今度はハンガリーだ。簡単にいえば、オーストリアは原発建設を断念したが、原発推進派の東欧諸国に取り囲まれているわけだ。オーストリアはハンガリーの野心的な原発拡大政策をひやひやしながら眺める一方、国民は反原発政策の代償として高い電気代を支払わされるのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年1月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。