沖縄の認知的不協和

池田 信夫

政治の世界では、合理的に理解できないことがよく起こる。米軍基地の辺野古移転を拒否する現職が勝った名護市長選挙もそうだ。日米政府と沖縄県が合意した基地移転を市がくつがえすことはできないし、県外という選択肢もない。この不合理な「民意」を理解する一つの答は、地域エゴとか補助金めあてという経済的な説明だが、今回は2兆円以上のつかみ金をけとばしたのだから、こういう説明には無理がある。


もう一つは、心理学の認知的不協和という概念だ。これは個人の意識と現実の行動が矛盾するとき、行動を正当化するように意識を変えるという理論だ。たとえばヘビースモーカーが「タバコは精神衛生にいい」と考え、習慣を変えられない現実から逃げようとする。

沖縄が貧しいのは彼らの責任だが、沖縄県民の脳内では、独立国だったのに琉球処分で日本に征服され、沖縄戦で犠牲になり、その後もアメリカの占領統治が続いた。沖縄の悲惨な状態はすべて米軍基地のせいだ――ということになっている。これはいつまでも「日帝36年」を糾弾する韓国人と似ている。

彼らに共通しているのは、悪い現実を他人の責任にしたいという欲望である。この認知的不協和をつかみ金で解くことはできない。彼らの目的は、自分の行動を正当化することだからである。これも韓国がアジア女性基金を拒否して、日本政府に謝罪を要求し続けるのと同じだ。

彼らの行動を正当化するために、いまだに「沖縄の心」とか戦争責任とかいう話が出てくるが、今の沖縄県民に沖縄戦を体験した人はほとんどいない。彼らの空想的平和主義は、地元メディアが作り出したものだ。琉球新報と沖縄タイムスの占有率は、実に80%。今回の名護市長選でも、どちらも稲嶺市長を露骨に支援するキャンペーンを張った。

しかし実は、彼らはその原因を取り除いてほしくない。たとえば米軍が基地をすべてグアムに移転したら、沖縄はますます貧しくなり、責任を転嫁する対象もなくなる。米軍は悪役を演じながら、金を落とし続けてほしいのだ。こうして基地は彼らのアイデンティティの根拠になり、集団の結束を強める装置になっている。

こういう傾向は、他との交流の少ない「閉じた社会」ほど強い。補助金に依存しているため沖縄経済は衰退し、若者は出て行くので、残った老人はますます結束を固め、地元メディアは基地反対で固まる。認知的不協和は、他人と同じ錯覚を共有することで軽減されるからだ。

この問題の解決策は、彼らの要求どおり米軍再編を白紙に戻し、普天間基地を米軍が使い続けることだ。もちろん移転補償金も「沖縄振興」の補助金もやめる。これで米軍も日本政府も困らない。困るのは地元である。沖縄が認知的不協和を自覚しない限り、外から彼らの行動を直すことはできない。