アベノジレンマが襲ってくる

大西 宏

今年はアベノミクスがアベノジレンマに変わりそうな一年になるように感じます。アベノミクスによって、円安となり、それが輸出企業の好調な決算を生み出す結果となり、また株価を上昇させてきました。さらに株価の上昇で懐が潤った人がでてきたこともあって、なにか明るい雰囲気を醸して、それが安倍内閣支持率を高止まりさせてきました。

かしそれは長続きしそうにありません。なぜなら、ふたつの勘違いがあったからです。まずは、円安になれば輸出が増えるという勘違いです。甘利経済再生相が今になって「貿易立国がゆらいでいる」と認められましたが、このブログでも円安で企業は手取りが増えたけれど、輸出数量は伸びていない、むしろ減ったことを書いてきました。

円安で輸出競争力が高まる?えっ、そんなことまだ信じているのということですが、池田信夫さんがそんな「常識」が未だに残っていたのかと驚くと書かれておられるとおりです。
日経ヴェリタスの「円安でも伸びぬ輸出 常識覆した日本企業の変化」という記事に驚いた。その内容にではなく、まだそういう「常識」があったことにである。甘利経済再生相は「貿易立国がゆらいでいる」というが、ゆらいでいるどころか、日本はとっくに貿易立国ではないのだ。

もうひとつの勘違いは、異次元の金融緩和を行うことでデフレからの脱却できるということでした。確かに昨年11月まで6ヶ月連続で生鮮食品を除く消費者物価総合指数は前年を上回り、いかにもデフレ脱却に成功してきているかのようです。アベノミクスを支持するエコノミストの人たちは、「ほうらデフレから脱却してきているでしょ」とおっしゃっています。

話が違います。お金が潤沢に提供されると、インフレ期待が起こり、それとともに物価も上がり、投資も活性化するシナリオだったはずです。しかし、物価があがってきたのは、円安で輸入物価があがり、燃料費や原材料費が高騰したためです。

そして円安は、貿易赤字を招き、所得収支の黒字でも埋めきれず経常収支まで赤字になってしまいました。失われた20年といわれる経済の停滞からの脱却を目指すべきところでしたが。それをデフレの脱却と置き換えてしまったところに無理があるということでしょう。

鶏が先か卵が先かのパズルになるかも知れませんが、冷静に考えれば、国際競争力を取り戻し、事業を伸ばせる見込みがあれば、企業はそれに投資します。その時に金利が安く、インフレが起こってくると思えばさらに投資にもはずみがつきます。
つまり、金利やお金の供給だけで経済が活力を取り戻すのではなく、成長性がある分野で、付加価値が高く、国際競争力をもったビジネスを伸ばす見通しや確信を企業が持ってこそ活力はでてきます。

それが成長戦略でしょうが、こちらは円安を招いたような速度では進みません。企業が新しい製品やサービス、またシステムを生み出すには時間がかかります。

つまりしばらくは金融政策の効き目に期待するだけでしょうが、しかしその間にも、輸入物価の上昇によるコスト負担が企業を襲います。さらに海外の優良企業の買収で、時間を買うということも可能ですが、円安は買収コストを引きあげてしまいます。
また円安バブルでつくられた企業決算や株高は、経営がそれに満足し。下手をすると企業のチャレンジ精神をも損なわせる恐れもあります。

公共事業による財政政策でGDPを嵩上げしましたが、皮肉なことに、消費税アップに備え、公共事業の駆け込みが猛烈な勢いで起こっているようで、消費税増税による景気への影響にはたして財政政策が効くかも不透明になってきています。

つまり、アベノミクスのジレンマが今年安倍内閣を襲ってくるのです。こうなれば、あっと驚くような異次元の規制緩和などを断行することでしょうね。そうなればビジネスチャンスへの嗅覚の鋭い企業は投資してきます。つまり、成長戦略でどれだけビジネスチャンスを政策で創り出せるのかにかかってきています。

大きな話は別にして、パナソニックが電子カルテ分野で国内トップシェアのパナソニック・ヘルスケアの売却を進めたり、また合併した三洋電機の電池部門出身者の流出が起こっているようです。
それでは電池のノウハウまで海外に流出しかねず、それはやがて日本のEVやハイブリッド車の競争力を削ぎます。そんなノウハウ流出を食い止めるぐらいのことはやっていただきたいものです。

さてアベノジレンマを安倍内閣は克服することができるのでしょうか。克服すれば長期政権化は間違いないのですが、そうでなければまた政治の混乱が起こり、経済の足をひっぱることにもなりかねず、ここ一番を乗り切っていただきたいものです。