タイ動乱の原因は不安定な王位と世代間闘争

アゴラ編集部

立憲君主制で国王は国民から深く敬愛されている。官僚や財界、大企業、都市の富裕層が力を持ち、それらの繁栄と引き替えに農民や工場労働者、貧困層、地方がわりをくっている。政治的にも成熟せず、民主主義が根付いているとはとても言いがたい。これはいったいどこの国のことか、と言えばインドシナのタイです。タイという国には、このように日本と似ている部分が少なからずあります。


こうした国内の矛盾に乗じ、利用したタクシン・チナワット氏が、地方の農民や貧困層の支持を取り付け、2001年の総選挙で政権の座に就きます。タクシン氏が率いるタイ愛国党は、王室や官僚、財界、富裕層、そしてそれらの後ろ盾になっている軍部の既得権を奪う政策を採り、彼らとの確執が深まっていきます。既得権者たちも一定、民主的な「民主市民連合(PAD)」という団体を作り、タクシン派の「反独裁民主統一戦線(UDD)」と激しく対立。PADは軍主導で2006年、タクシン首相を追放したんだが、選挙をするたびにUDDに負けます。両者の争いは、2010年の春、バンコック市内が麻痺状態になる衝突に発展し、2011年5月の総選挙で再度、タクシン派が政権に復帰してしばらくは小康状態を保ってきました。

こうして眺めてみると、既得権者は少数派なので民主的な選挙では劣勢ながら、軍部の力を背景にした実力があり、両者の対立が解消されず、タイの混迷に拍車をかけているように思えます。しかし、タイの民主主義はまだ未成熟で、正常な選挙が行われているとも限らない。これは日本と同じなんだが、情実や利益誘導、地域ボスの圧力がより露骨になされ、タクシンを担いでいる連中がけっして良質な民主主義の体現者だとは限らない、という意見もあります。

タイの権力の腐敗構造は複雑で根深いと言え、当方も以前、タイの軍人やら警察官僚やらの接待に翻弄された経験があります。彼らにしても「心の底から」タイ東北部農村の貧困問題を解決したい、と考えていて、実際にいろいろな行動を起こしている。ところが、自分の利権に関することは絶対に手放しません。

富裕層と貧困層の対立というステレオタイプの図式にまどわされると、こうしたタイの現状があまりよく理解できないでしょう。すでに世界最長の王座に就いているタイ国王ラーマ9世プミポン王は今年87歳になる。当然、後継者問題もあるんだが、存命の間に次期王位について言及するのは「不敬」である、という圧力があり、タイ国民の間でもマスメディアでも議論は真剣になされてはいないようです。盤石にみえるプミポン国王の王位もその年齢と後継者難により不安定化している、と言えます。

また、日本にも戦前あった枢密院がタイの実権を実質的に握り、枢密院のプレム・チンスラーノン議長自身が反タクシンの黒幕、という話もある。しかし、チンスラーノン議長も93歳と高齢であり、その威勢にも衰えが見え始めています。高齢者が後進に禅譲せず居座る、というのも日本とよく似ている。ちなみに、チンスラーノン議長も積極的に慈善活動をやっています。こうしてみると、タイの混乱は世代間闘争という側面があり、また王室周辺の権力構造と王位の「不安定さ」も大きな原因、と言えるでしょう。

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