主要各国の元首が訪ロを次々とキャンセルしているソチオリンピック。安倍首相はそのソチに行くことを表明しました。2020年の東京オリンピックが決まったところでありますので純粋にオリンピックに行くという判断が優先しているのだろうと思いますが、もう一つの心はプーチン大統領との関係を壊さないようきちんとする、という気持ちの表れではないかとみています。
安倍首相の就任以来盛り上がり始めた北方領土に関する話題は親日家、プーチン大統領の東方政策に乗ずる形で一時期は死に絶えていた交渉が復活しようとしています。プーチン大統領も国内問題や「西方政策」で苦慮している上にソチオリンピックが間もなく開幕するにあたりテロ攻撃の予告もある中でまずはこのオリンピックをどうこなすのか、ここにすべてのエネルギーを集中していることでしょう。
一部の元首がプーチン大統領の同性愛問題に対する発言を理由に訪ロを取りやめていますが、もう一つの理由は当然、テロに巻き込まれたくないという気持ちがあるはずです(ならば選手は良いのか、という論理もあるのですが)。少なくとも安倍首相はそのリスクを勘案したうえでそれでもソチに行くと決めたのは立派な判断だと考えています。
さて、その究極的な目的である北方領土問題についてはロシアのラブロフ外相が「第2次世界大戦の結果を認めることが解決に向けた争う余地のない第一歩だ」と強調した、とあります。
ロシアはここ数年、米英ソが戦後処理を話し合い、対日参戦の見返りに北方領土を含む千島列島のソ連への引き渡しを決めた1945年の「ヤルタ会談」などを根拠に、北方領土領有の正統性を強く主張しているというのが報道の趣旨です。(日経1月22日電子版より)
この発言には個人的に二つの意味を感じています。一つはラブロフ外相が解決への糸口のヒントを出したということです。勿論、過去の交渉やロシアあるいはソ連時代の声明も似たようなものがあった、といえばそうかもしれませんが、長く交渉が閉ざされていた中でロシアが話し合いについてここまで進展してきたという意味は大きいとみています。また、プーチン大統領の訪日への言及も併せて行われていることから、一定の前向きの方向に話を進めるのがロシア側の既定路線のように見受けられます。
もう一つの意味はヤルタ会談を引き合いに出した点でしょうか? 日本を早期に敗北に追い込むため、ドイツ降伏の2ないし3か月後にソ連が対日参戦する見返りとして、日本の敗北後、南樺太をソ連に返還し、千島列島をソ連に引き渡すべきとした(ウィキペディア)ヤルタ協定を改めて前面に出されると日本がどこまで論理性をもって反論できるのか、微妙なのであります。
もともと北方領土交渉はソ連が参加しなかったサンフランシスコ講和条約や1956年の日ソ共同宣言が主軸で話が行われていたと記憶しております。ヤルタまで引き戻されると終戦後、吉田茂首相が国後、択捉は困難と言及していた記録があり、日本の歴史認識上の齟齬も生じることがあり得るのです。
ただ、ラブロフ外相、ひいてはロシア側のポイントは北方領土を何らかの形で日本とディールし、問題解決を行うとすればロシア国内の反対派をどう抑えるのか、この理由づけに苦慮しているのではないでしょうか? もともと北方領土問題が解決しないもう一つの理由はソ連、ロシア時代を通じてあの島を日本に返還することへの圧倒的反対のボイスがあることです。よって、プーチン大統領としてはあくまで「ディールをした」という形にすることが重要なのでしょう。
このあたりのロシアと日本の温度差をどうまとめあげるかがこの問題の解決策のヒントになるとみています。
私はこの問題を長く関心をもってみてきていますが、今回のチャンスを逃すとまた、10年スパンで解決の糸口が流れてしまう気がしております。よって、今回こそ、うまく交渉し平和条約の締結が行われることを期待しております。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年1月23日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。