地中海のボートピープルが増えた --- 長谷川 良

アゴラ

スイス・ジュネーブに本部を置く国際移住機関(IOM)によると、昨年、4万5000人以上が地中海を渡ってイタリア、マルタへ移住を試みた。リビア危機の2011年(6万3000人)を除くと、2008年以来、移住者数は過去最高を記録したという。 

イタリアを目指した移住者数は約4万2900人。そのうち、1万4700人はランペドゥーザ島(島民人口は約5500人)、1万4300人はシチリアの島だ。その他、2800人はマルタだった。移住者の5400人は女性、8300人は未成年者だ。そのうち、5200人は両親がいない。


移住者の出身国別を見ると、1万1300人がシリア、9800人がエリトリア、そして3200人がソマリアとなっている。「彼らの多くは祖国から避難を強いられた人々だ。イタリア政府は彼らを正式に難民として認知しなければならない」という。

移住者の殺到は今年に入っても続いている。1月24日にはシチリア島海峡で204人のボートピープルがイタリア海軍によって救援されている。

IOMによると、過去20年間で2万人以上がイタリア海岸を目指す途中、溺れ死んでいる。彼らの身元確認は非常に難しいという(2011年には約2300人、昨年は約700人が死亡した)。

例えば、イタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖で昨年10月3日、難民約500人が乗った船が火災を起こし沈没した。イタリアのメディアによると、300人余りが犠牲となった。

マルタのジョセフ・ムスカット首相は同月12日、イギリスのBBC放送とのインタビューの中で「欧州連合(EU)は空言を弄するだけだ。どれだけの難民がこれからも死ななければならないか。このままの状況では地中海は墓場になってしまう」と嘆いている。

移住者急増の背景には、アラブ諸国の民主化運動(通称・アラブの春)が影響している。独裁政権に終止符が打たれたが、同時に大量の経済移住者が出てきたわけだ。

北アフリカ・アラブ諸国からの移住者殺到に対して、欧州連合(EU)は頭を悩ませている。イタリアやマルタの当事国だけで解決できる問題ではないからだ。

EU側は人道的支援を約束しているが、財政危機に直面し、国内に大量の失業者を抱えるEU諸国は新たに大量の移住者を受け入れることはもはやできない。

もちろん、経済的理由の基づく移住者(経済難民)とジュネーブの難民条項に該当する難民の区別もここにきて次第に難しくなってきた、という事情がある。

モーセが約60万人のイスラエル民族を引率して神が約束した乳と蜜の流れるカナンの地を目指したように、現代の移住者は経済的豊かな未来を夢見て海に飛び出し、豊かな社会の戸を激しく叩き続けている。

国際社会としては、難民、移住者の支援とともに、大量の難民、移住者を生み出す国(特に、北アフリカ、中東諸国)への支援が急務だ。教育の普及、技術の平準化など、国際社会が取り組まなければならない課題は少なくないはずだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。