「原発ゼロ」はハイリスク・ノーリターン

池田 信夫

きょうの東電管内の電力使用率は、17:50に最大96.92%まで上がった。幸い、その後は下がっているが、各電力会社は古い石油火力や石炭火力をたいてしのいでいる。それが一つ落ちたら終わりだ。北海道電力も、先月は97%まで行った。何も事故が起こらないのが奇蹟みたいなものだ。


それでも「東電の脅しだ」とか「100%を超えても大丈夫」とかいう連中がいる。「去年の燃料費輸入増は3兆6000億円」という政府発表を「ドル高と原油高のせいだ」という。確かに去年の原油輸入量は横ばいだが、図のようにLNG輸入量は2011年以降、約25%増えた。

この期間に輸入額は3.6兆円増え、LNGのドル建て単価も40%以上あがった。長期契約のLNGをスポットで買いに行ったので、足元を見られたのだ。だから輸入額の増加の半分以上が、原発停止の影響とみていいだろう。ざっと年間2兆円が原発停止の機会費用だが、それがどうだというのか。2兆円ならドブに捨ててもいいのか。

毎日新聞の中村秀明という論説委員は「貿易赤字そのものが悪いわけではない」という。それは借金そのものが悪いわけではないのと同じだ。しかし毎日新聞社のように過大な借金をするとどうなるか、彼は覚えていないのだろうか。

貿易赤字や経常赤字がいいか悪いかは、それによって何を得るかに依存する。赤字の分を投資に回して将来のリターンに結びつくのなら「よい赤字」だが、今の世代が食いつぶすだけなら「悪い赤字」だ。原発の停止による赤字は、資金が国内にまったく回らないで中東に流出する最悪の赤字である。

きょうは休日だったのが幸いした。また平日に大寒波が来たら、どうなるかわからない。電力は社会のもっとも重要なインフラである。それを政治のおもちゃにして、いつまでこういう無意味な綱渡りを続けるのか。