もうすぐ東京都知事選挙が行われる。最近ではネットの発達によって、優先する政策について自分とのマッチングをするサイトも出現し、そこでは、個人が設問に対して回答することで政策の一致度が表示される。ホームページやネットでの中継なども盛んになっており、従来の選挙公報と政見放送や大手メディアの情報などに限定されていた情報源が多様化し、有権者によって選択しやすい状況になってきたといえる。
マッチングサイトをやってみると、意外なことがわかったり、納得することもあったりして面白い。まさか、やっぱり、意外と感じることの連続。自分の価値観を問われることもあったりする。
我々は政治家を選ぶときにどのようにして選ぶのか。利害関係、支持政党との関係、政策の一致度合、印象や感情によって政治家が役職にふさわしいか判断するのが通常だ。
個人的にはある程度最後は直感で選ぶことが多いが、候補者の選び方は自由だし、人それぞれにやり方があってよいと思う。しかし、これだけで十分なのかという思いを持ってきた。候補者を人事評価的な視点で見ることが求められるのではないかと思うのだ。
組織内では、人がある位置に昇進する際に、人事評価が活用される。能力、態度・姿勢、業績といった視点によって評価される。それは民間組織であれ、行政機関であれ同様だ。民間や行政機関の評価は年々精緻化してきている一方、20年以上政治を研究してきたが、こうした人事評価的なものが行われたとか聞いたこともないし、見たこともほとんどない。
ネットでの政治家評価もあるが、それは評価視点が限定された「議案評価」や包括的な「支持率」といったものにとどまっている。政治的な活動なので、政治的な利害に左右されない形での客観性を担保するため、サイトの運営者は相当苦労されたのではないかと想像する。
人事評価が必要な理由として、第一に、「日本を変える」「安心・希望の社会保障」と掲げられた政策やキャッチフレーズだけでは抽象すぎて十分判断できないことがある。専門家としておこがましいことを言わせてもらうと、HPを見ても、政策レベルの具体性や厳密さという点で差がない。そのため、候補者間の違いが明確にならず、判断がつかない。
第二に、その候補者がもつ能力に我々はこれまであまり注目を払ってこなかったからだ。 なんとなくのイメージで答えてきたとも言い換えることができる。リーダーとして適任か判断する視点や基準があいまいであったといえよう。
人事評価でよく起こることは、営業成績が高い営業マンが必ずしても、部長や社長として優秀ではないということだ。つまり、「できる人」はいつも「できる人」ではなく、役職に求められる能力は様々で、それとの適性による。
そもそも、我々はどのように政治家を評価してきたか。実績、行動、言動などの断片的な情報から評価してきたのが実情だろう。メディアもその能力を評価することは避けてきた。であるからこそ、我々はある程度の基準・視点を提供し、人々に判断する材料を提供し、みなで考えていきたい。
東京都知事の役割は何か。1.全体の方向性を決める、2.政策間に優先順位をつけ、資源(人・もの・金)を配分する、3.それぞれの政策ごとに、実行方針や目標・期限を明確化する、4各部局の政策目標に確実に落としこむ、5.途中の進行管理、6.当初の目標に対して責任を取ること。そう仮に考えると、こうした役割を発揮するために何が必要かということだ。
こうして以下のような政治家評価ができあがる。大項目と中項目は以下のようになる。
・実行力:企画力、意思決定力、危機管理力、交渉力、調整力
・マネジメント力:目標管理力、部下指導力、部下育成力
・コミュニケーション力:情報発信力(対内・対外)、伝達力、現状把握力
という視点となる。もちろん特定団体への利害誘導力は入らない(笑)。
もちろんこれらは選挙によって変わってくる。個々の定義や視点は様々である。我々としては評価基準を持ってきるが、ここでは明らかにしない。こうした視点を持って、有権者それぞれが候補者を過去の実績で判断するのもよし、相当する過去の実績がなかったら今後の発揮度や可能性で見るのもよいだろう。
これは政治家評価の一例であるが、個々人が頭の中でじっくり考察してもらいたいと思う。一部メディアは発表して候補者と激論してもいいだろう。根拠を突っ込まれたらそれに応えてくださいというだけだ。
我々は、なんとなく政治家として「できる人」と判断した人に投票し、後になって後悔する経験をいつまで繰り返しているのか。政治家に求められる能力はなにで、どういったリーダーシップを求めているのか、能力的にどうかを自分の尺度で考察していくときは今ではないか。
提起した評価視点の使い方は皆さんの自由である。会社員の方は自分が会社でやっている人事評価シートをもとに、考えてみてもいいだろう。我々が政治家を見る視点を確立し、それをもとに、議論や思考をすることが大事なのである。リーダーとはどういった責任があるのか、も明らかになると思う。それこそ国民に問われていることだろう。誰がいいのか、政治家選択の議論も活発にすることが我々の見る目やリーダーを選ぶ目を成長させる。そして、政治家を成長させる。
西村 健
日本公共利益研究所 代表