妥協の産物なのか、言っていることがよくわからないのがアクトビラの「時差再生VODサービス」です。ニュースリリースを読んでみると、アクトビラビデオの配信インフラを放送局に提供し、それを利用した番組であれば、番組放送途中でも番組の先頭からVOD視聴を開始できるのそうです。
えっ!?、「番組放送途中でも」ですか。それだけ?
アクトビラ、時差再生VODサービス機能を追加 – AV Watch
さらに、このサービスに対応するテレビが限定されているというのです。もうひとつおまけは、操作はもはや時代の遺物化してきているテレビのリモコンからです。
現状のさまざまな枠組みや制約のなかで「できること」をやりましたということでしょうが、なぜもっと踏み込めなかったのかが残念なところです。アクトビラが、いくら液晶テレビのメーカーが束になってつくったサービス会社とはいえ、放送局の壁はまだまだ高くそびえているということでしょう。
テレビの世界は、ハードもソフトもすでに成熟しています。とはいえ、メディアの接触時間でいえばいまだに王様といえる存在に変わりありません。テレビ離れといわれつつ、NHK放送文化研究所の「全国個人視聴率調査」(平成23年6月)では、近年わすかに減少傾向にあった1日の平均テレビジョン視聴時間は3時間46分と増加に転じています。
総務省|平成24年版 情報通信白書
博報堂の調査でも、確かに世代によって接触メディアの多様化が進み、若い世代ではPCと携帯を合計すればインターネットへの接触時間がテレビを上回っていますが、それでも単独のメディアとしてはどの世代でもトップの座を占めています
さらに増加のモバイル利用、減るテレビとPC…メディア接触時間推移(2013年) – ガベージニュース
また主要国におけるテレビの平均視聴時間は、全世界平均で222分/日ですから、やはりメディアとしての存在は大きいのです。
一番テレビを観ているのはアメリカ、約5時間/日…主要国のテレビ視聴時間をグラフ化してみる – ガベージニュース
しかし、ライフスタイルの変化やインターネットの普及、さらにモバイル化などの変化が起こり、それにテレビが適応してきていないことは間違いなく、視聴者や社会のニーズとテレビとのギャップが生じてきています。
視聴者や社会のニーズとのギャップ、さらに技術のギャップが生まれてきている、それはチャレンジする側から見れば、大きなイノベーションのチャンスが来ていることになります。だから、アップル、グーグル、ネットフリックスなど多くの企業がテレビの革新を狙ったチャレンジをはじめていて、次世代のテレビをどこが切り拓くのか、まるでイノベーションのオリンピックのような状況がスタートしていてます。
テレビは新時代を迎えようとしています。しかも、番組というコンテンツ、それを見るハード、そのプラットフォームで生まれてくる新産業と産業の裾野は広いのです。
しかもスマートフォンの利用を見れば、日本はアプリの活用度が高く、使いこなせる質の高い消費者に恵まれた国です。
しかし、残念なことに、日本はこのチャレンジのオリンピックの予選すらでることができないほど惨めな状況です。アクトビラにしても、もっとTVにしても、現状のテレビのビジネスの枠組みのなかでしかサービス提供ができず、まるで日本のテレビを取り囲む業界がイノベーションのジレンマにはまってしまっていているように感じます。
今のままではブレークするにはほど遠く、やがてスマートフォンがそうであったように、気がつけば海外企業がすべてを制覇する時代がやってきそうな気配です。
それで4Kや8Kという画質改善に活路を見出そうとしているのですが、しょせん大きな社会のニーズにそったものでないので、放送局用の機材やシステムにはビジネスチャンスがあったとしても、液晶テレビははやコモディティ化の罠が見えてしまっている状態です。
しかし考えてみれば、電波の許認可を握っているのは総務省です。つまり政治が関与できる余地があるということでしょう。番組内容を干渉すれば問題でしょうが、インターネットとの通信の融合や、ソーシャルメディアとの連動、さらにVODサービスなどの放送形態、あるいはサービスについて政治が放送局に進化を求めることはあってもいいのでしょう。
既存のビジネスの枠組みを変えないと、もう進化はなく、社会に新しいテレビの価値を創造して提供し、産業を成長させること、またメディアが融合した新産業を生み出していくことはほど遠くなってきます。
こういったことは、あれこれ議論はなされているのでしょうが、ここは思い切ってメディアの進化を促す法案でも通せば、安倍内閣の「成長戦略」も輝いてくるのではないでしょうか。その一歩を踏み出せるのか、そうでないかで歴史は大きく変わってくると思います。