非政府機関「国境なき記者団」(本部パリ)が2月12日公表した2014年の「世界の報道の自由度指数」で、日本は59位と前年より6位下がった。日本国内の「報道の自由」がテーマだが、海外に派遣された特派員が所属する「日本人記者クラブ」の実態も忘れてはならないだろう。
そこで当方が7年前、ウィーン駐在の日本大手メディア特派員から聞いた「衝撃の告白」を再度、紹介する。海外駐在の日本人記者クラブの実態を物語っているからだ。
「記者クラブは相互監視システムに酷似している。他社が特ダネやスクープをすることを回避するのが狙いだ。だから、本人が情報を入手した場合、大スクープ以外は他社の記者と共有する。俗に貸しをつくるというやつだ。情報を教えられた側も新しいニュースを聞くと、その借りを返すために、情報を相手の記者に教えるのだ。
特に、海外に2年から3年間、特派員として滞在する場合、その地の日本人記者クラブに所属することが、国内で所属する以上に重要となる。短期間の滞在中に、他社の記者がスクープするようなことがあれば、東京のデスクからどやされてしまう。だから、記者クラブのメンバーたちは日頃から家族ぐるみで付き合いをする。情報を独占せずに他社の記者に教えてやるのは、保険をかけるようなものだ。スクープを出し抜くのはお互いなしにしようという一種の紳士協定だ。
このように、日本記者クラブも機能していく。クラブの幹事は交代制だ。幹事になれば、日本大使館への窓口となり、大きな政治的行事がある場合、例えば、国際原子力機関(IAEA)の理事会の場合、日本大使にブリーフィングを要請し、クラブのメンバーにその日程を知らせる。
この相互監視制が機能しない状況が生じることもある。例えば、大手の新聞社から若手の記者が赴任した時だ。彼は初めての特派員生活だから、意欲に満ち溢れている。同時に、見るもの、聞くものが新鮮だから、記事も大量生産する。それを横目で見る2年以上の古手の特派員は『若い記者はコレだから困るんだ』と嘆いてみせる。
しかし、新しい若手の特派員も次第に記者クラブの制度に順応してくる。ちょっとしたスクープをすれば、赴任先の特派員社会で孤立することが目に見えてくるから、自然に自己規制が働く。このようにして、海外の日本人特派員は相互監視の世界に適応する一方、取材活動は支局の現地雇いのアシスタント記者まかせとなっていく。大きなミスをせず、無難に3年間余りの特派員生活を過ごすことが最大の関心事となり、家庭ぐるみで海外生活をエンジョイし、帰国すればいい、というふうに考え出す」
7年前の告白だが、大筋では今も変わらないだろう。IAEA理事会では会期が終わる度に日本人記者がIAEA担当の日本人外交官から詳細な報告を受ける。
ウィーン日本人記者クラブに所属していない当方はもちろん参加できない。当方が日本人記者向けのブリーフィングを聞こうと近づいた時、記者たちは嫌な顔をして外交官と共に別の部屋に行ってしまった。日本人記者クラブは海外でもその排他性を遺憾なく発揮しているわけだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。