NHK経営委員という「公人」の影響力 --- 岡本 裕明

アゴラ

NHK経営委員で作家の百田尚樹氏の発言とその後の動きについて注目が再び集まっています。

百田尚樹氏はこの数年、突如注目されるようになった方なのですが、それは『永遠の0』というゼロ戦に乗るパイロットの運命を描いた氏の処女作が売れに売れ、さらに映画化されたことが大きいでしょう。私も読ませていただきましたが、事実関係をよく調べたうえで小説化した点において作品としては評価されると思います。その中で「思想の色」があることもその文章からもよく見て取れます。ただ、人はどんな思想でも憲法上許されているわけですから、「個人」としての主張はなんら問題はないと考えられます。


しかしながら「主張」はある時、「事実」という意味に履き替えられ、誤解を招く可能性がある点だけは気をつけなくてはいけません。一定の影響力がある人やしかるべき立場に立つ人の行動や言動は慎まなくてはいけないのはなぜでしょう? その言葉が間違って認識されたり言葉足らずだったものをマスコミや一般庶民が面白おかしく捉える結果としてご本人の意図と違う方向に勝手に進んでしまうことがあり、制御不能になりやすいということであります。それは今日、インターネットが急速に普及した時代であるがゆえにより気を付けなくてはいけないのであります。

例えば、森元首相が浅田真央選手について「大事なところで必ず転ぶ」と発言したことが大きな波紋を呼びましたが、結果として森氏はその発言の趣旨を再び説明する事態に追い込まれました。これも森元首相が2020年東京オリンピックの責任者であるという立場からオリンピック選手の失敗を非難したという意味合いに繋がったものかと思います。

百田氏については氏が作家としてのみの活動であればまだ、「あぁ、あの人がまた何か言っているね」で終わったかもしれません。しかし、NHKの経営委員という立場となればこれには噛みつく人はゴマンといるわけです。NHKの経営委員とはNHKの最高意思決定機関であり、一般会社でいう取締役であります。一方、放送関係者は委員になれない為、全員社外取締役と言ってもよいのかもしれません。

NHKそのものの運営はウェブサイトからは公共の福祉、独立性や自主性という言葉が並び、その言葉通りに取れば思想的背景は反映させないということになります。ある意味国民から広く薄く受信料を頂戴するためには特定思想に偏れば「俺は払わない」という状況を生み出すことになります。これが百田氏他に対して罷免要求する側の根本背景でありましょう。

一方、NHKは思想的に左がかっていると長年指摘されてきました。渋谷のNHKには中国の国営放送(中国中央電視台)が同居している事情もあり、先方に配慮しなくてはいけない事実もあったのでしょう。ところが、NHK会長を任命した安倍首相がその色合いをグッと変えてきました。それが経営委員会のメンバー構成であり、昨今のさまざまな問題発言につながるというわけです。

個人的には発言者の道徳観の問題かと思います。自己思想と自己の立場のバランス感覚が悪いということでありましょうか? 公人と私人というわきまえの中で「今日は私人として発言するが…」としてもそれをその言葉通りに取る人はいません。私人の色も公人の色とみなされやすいものです。NHKの経営委員になった以上、百田氏を含むすべての経営委員は行動や口は慎むべきです。それが嫌で私人としては好き勝手したいというなら経営委員不適格であります。経営委員を降りたあとはまた私人として好き勝手言えばよいでしょう。

急速なITの普及はつぶやきが瞬く間に世界に拡散します。そのフォローや対応が十分にできないのならば呟くべきではないというのが私の考えであります。

これについては皆さん、様々なご意見もあることかと思います。お聞かせ願えればと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年2月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。