ヤンキーってB層?D層?

新田 哲史

ようやく都知事選の残務も終了ということで、ちょうど1カ月ぶりにアゴラに復帰した私。家入さんの選挙戦に関しては、一応、現代ビジネスで書かせてもらったので、見逃されていた方は、ぜひご参照ください(第1回第2回最終回)。期間中はテレビすらまともに見る時間がなかったのだけど、日常に戻り、読書の時間が取れそうということで、いま気になっている本がある。博報堂の原田曜平さんが書いた「ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体」だ。



●話題の「ヤンキー」ブーム
早速アマゾンで取り寄せようとしたが、初版が少なかったのか売り切れ状態でもう一週間以上、放置されている(泣)。近所のリアル書店を何軒か覗いてみたが、こちらも品切れ。売れているんですね。そういうわけで書評に関しては本を入手してから書くとする。それで、この本に何故興味を持ったかと言うと、選挙に関わるようになってから消費行動と投票行動の関連性に注目するようになったからだ。いつかまとまった考察をしたいと考えていたところで刊行だった。

「ヤンキー」を経済の視点から解き明かす記事は、ここ1年くらい目立ってきた。東洋経済が昨春、「ヤンキー消費をつかまえろ」というメイン特集を組んで話題に。去年の暮れにも週刊現代が「日本人の9割がヤンキーになる」という、煽り気味(笑)の記事を書いて、現代ビジネスに転載されるや8000を超える「いいね!」が押される程のアクセスを集めた。2つの記事を読めば、大体のことは分かるだろう。階層化の動向として読む限りは、原田さんの師匠筋にあたる三浦展さんのベストセラー「下流社会」で書かれていた郊外の地方都市に住む若者像を彷彿とさせる。ただ、あの本が出た2005年以前からも、いわゆる「意識高い系」や「意識高い系(笑)」のような上昇志向とは無縁の若者たちはいた。その当時と今の「ヤンキー」は、何か気質が変わったのだろうか。



●ヤンキーと政治
なお、東洋経済はヤンキー論との政治の関連性についても読み解こうとしていて、記事が出た頃にはまだ勢いがあった維新の会の台頭もシンボリックな現象としている。政敵を作って、とことんやり込める橋下さんのスタイルは確かにヤンキーだ(笑)そういえば、勝谷さんも以前、あちこちでそういう指摘をしていたな。で、その東洋経済の取材に応じた精神科医の斎藤環先生は、こう語っている。

日本の政治家にもヤンキーは多い。日本の選挙運動というバッドセンスなものに何の抵抗もないのがヤンキー的な人たちだからです。決起集会では「エイエイオー」なんてやって、たすきを掛けて白い手袋で街頭演説。群衆の中で自分の名前を連呼するという恥辱プレーをしなければならない。普通なら耐えがたいですよ。しかしヤンキー的な人々にとっては自然なこと。これがそういう伝統なんだと言われたら納得してしまう。反知性主義であり、現実思考的なのはヤンキーの特徴です。

バッドセンスな日本の選挙活動(笑)いや実際、家入さんの選挙戦の最大の反省である地上戦を、それもどぶ板でゴリゴリ展開するには、まさにヤンキーのような無鉄砲さが必要だと思う。ポスティングしかり、チラシ配りしかり、街頭活動でお騒がせしたり――ご迷惑をかけることもいとわない強靭な度胸と体力という部分では親和性は確かに高い。

●ヤンキーは何層なのか?
では、仮に原田さんや東洋経済が主張するように、日本の「ヤンキー化」が事実だとして、投票行動にはどう影響を与えるのだろうか。有権者層の分析フレームワークは色々あるが、有名なところでは、郵政選挙の折、あるPR会社が自民党に提案したことで有名になった「A~D層」だ=図参照=。もちろん、差別的な視点に基づく分析手法なので私は好きではないが、いわゆる原田さんが言う「ヤンキー」的な有権者はどこに位置付けられるのだろうか。横軸の「近代的価値」は保守的傾向が強いとすればC層かD層になる。
140223ヤンキー

ここで判断が難しいのは、縦軸の「IQ」。このフレームワークが問題視される所以なんだけど、「ヤンキーは学歴が高くないから」とD層に“認定”するのは単純すぎる気もする。地元のことに精通して郷土愛もあるのが「ヤンキー」。理論武装は出来なくても、地頭がよくて社会的立ち回りに優れる。マスコミの通り一遍な情報に踊らされない「ヤンキー」だっているだろう。ちなみに筆者の実体験に基づく感覚では、俗にいう「ネット右翼」の方々は歴史的な事実を彼らなりの解釈とはいえ、よく勉強はしているので「C層」との親和性が高いように思えるのだが、一気呵成な行動力がある点で「ヤンキー」とオーバーラップしているのだろうか。田母神さんに投票した“愛国者”の皆さんからすれば「俺たちはヤンキーではない!」と怒られそうだが(怖いよー、汗)、もちろん決め付けたわけではないですよ



●世の中の事象は複雑
そもそも、投票される側で挙げられていた橋下さんは、小泉さんと同じテレビ政治を立脚点にしていた時点でB層がメインターゲットだといえる。そうなると、「ヤンキー」をC層かD層でみた場合は矛盾するので「維新=ヤンキーの代表」とは言えなくなる。ま、結局、世の中で起きている事象は一つのフレームワークで分類することができるほど、単純ではないわけです。

「ヤンキー」が今後の日本の政治、選挙にどう影響を与えるのか。引き続き注視・分析していきたいと思う。そんなわけで、怖い人たちに凄まれる前に逃げよう。ちゃおー(^-^ゞ

新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ