全国を回って穴掘りをしている原子力規制委員会は、志賀原発(石川県)の穴掘りを始めたようだ。ご苦労様だが、彼らがかりに活断層を発見したとしても、それを根拠に再稼動を止めることはできない。
日経新聞は「原発の規制基準は活断層の上に原子炉など重要設備を設置することを認めていない。S―1断層が活断層と判定されれば1号機は再稼働が困難になる公算が大きい」と書いているが、これは間違いである。規制基準に「活断層の上に重要施設を建ててはならない」と明記されたのは昨年であり、1988年に設置許可を受けた志賀原発に2013年の技術基準を遡及適用することはできない。
法の不遡及は法治国家の根本原則であり、憲法でも禁じている。こんな前例を認めたら、あなたは25年前の交通違反について今年できた法律で死刑になるかも知れない。原発についてはバックフィットが例外的に認められる場合もあるが、それは憲法違反にならないように慎重に運用し、対象を具体的に列挙し、事業者と合意するか国家賠償するのが普通である。
ところが法律を知らない田中俊一委員長は、田中私案なるメモで、すべての原発に一律に新基準を遡及適用してしまった。特に重要なのは、田中私案で「設置変更許可、工事計画認可、保安規定認可といった関連する申請を同時期に提出」させることだ。原子炉等規制法で運転開始前に義務づけているのは保安規定認可(書類審査)だけだが、田中私案はこれを(新基準による)耐震工事などの認可に拡大してしまったのだ。
活断層は全国に2000以上あり、新幹線の下にも多くの活断層が走っている。建築基準法でも、活断層の上に建物を建てることは禁じていない。問題はそれによって建物が損壊するかどうかで、ほとんどの活断層は大きな地震動にはならない。多くの地震の震源は3km以下の深い地中にあり、穴掘り隊がいくら掘っても見つけることはできないのだ。
タイムマシンに乗って昨年の法律を25年前に適用する原子力規制委員会の穴掘りキャラバンは憲法違反だ。2013年にできた技術基準が適用されるのは、それ以降に設置許可を申請する原発だけである。