就任早々、失言で騒ぎを起こしたNHKの籾井会長が、今度は理事全員に辞表の提出を求めた。彼は国会でそれを質問されて「人事案件だから答えられない」と答弁したが、他の理事は「辞表を書かされた」と答えた。これは異例の事態である。
塚田専務理事は私の先輩(報道番組)だが、人格円満な調整型。上滝理事(社会部)は社宅で私の隣の部屋だったが、同じタイプ。他の理事も、こういうことはめったにしない人ばかりだ。それが会長に逆らって10人全員が本当のことをいったのは、明確な「理事の反乱」である。籾井会長のもとでは仕事できませんという意思表示だ。
国会答弁は、NHKの鬼門である。池田芳蔵会長(籾井氏と同じ三井物産出身)も島桂次会長も、国会答弁の失敗で辞任した。海老沢会長は、私に脅迫状を出して国会で逆に追及され、右往左往した。理事のうち4人も政治部・政治番組の出身者がいるのは「国会担当」が仕事である。言葉は悪いが、彼らは総会屋みたいなもので、国会で立ち往生するのを避けることが最大の仕事だ。
それを会長みずから失言で予算委員会に呼び出される事態をまねき、それを追及されると開き直って答弁を拒否するのでは、これからのNHK予算審議はとても乗り切れない――と彼らは判断したのだろう。堂元副会長も塚田理事も、政治のプロだ。彼らの行動は、自民党にも根回しして了解を得ているはずである。
NHKをめぐっては経営委員の失言も騒がれているが、経営委員会なんか機能してないので廃止してもいい。政治が介入すると「言論の自由」を理由に反対されるが、経営陣が番組の内容に介入することはできない。NHKのガバナンスは実質的に自民党がやっているが、これを公開して総会屋的な関係を透明化すべきだ。オンデマンドを無料化し、アーカイブを公開するなど、インターネット時代に適応した経営改革が必要だ。
テレビは特殊な仕事である。メディアを知らない人が会長になっても、現状維持を求める現場の「下克上」をくつがえすことはできない。トヨタとかJRの出身者を入れても、経費節約しかできなかった。三井物産で鉄鋼畑だった(日本ユニシスは天下りポスト)籾井会長に、NHKの改革はできない。早くも「死に体」になった籾井氏は更迭し、インターネットを知っている若い経営者(たとえば三木谷浩史氏)を会長にして、NHKを本当の意味で改革すべきだ。