ソチが問う東京の覚悟 --- 中村 伊知哉

アゴラ

ソチ五輪が閉幕して気が抜けております。ぼくは五輪好きです。スポーツに明るくはありませんが、「国の覚悟」と「採点競技」の2点が気になって、ヒトコト発したくなるのです。
  
ブツブツ言う前にほめます。


よくやりました。金。フィギュアスケートが美を競うものだとすれば、その頂点にアジアの男子が立つのは事件だと思います。しかもフィギュア男子、金銀銅ともアジア人でした。チャンは中国系、テンは韓国系。美の頂点を独占。大変なことで、またヘンなルール変更にならないかが気がかりです。

羽生くんの金は日本のファン層の厚さが後押ししたという分析があります。日本の大会が常に満員で選手とファンの間に濃密な関係があるのに対し、海外ではガラガラという差は大きいと。羽生くんも初音ミクもコスプレも和食も、ファンが育てたもの。それがクールジャパンの基盤です。今後の人材育成もファン層の維持がポイントになります。

浅田真央さんの結果は残念でしたが、女王ソトニコワも、リプニツカヤも真央さんが好きで尊敬していると話しています。閉会式では真央さんフリーの使用曲、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」が演奏されたといいます。

スケーターとして名と映像を歴史に刻んだんですね。トリプルアクセルの歴史というこの映像を見ると真央さんの凄さがよくわかります。(最後の伊藤みどりさんが圧巻なのもわかります。)→ http://bit.ly/1hjvsQI

スノボハーフパイプの結果は、ベルリンオリンピックの棒高跳び、2位西田3位大江友情のメダルを思い起こさせました。ハーフパイプ中高生と羽生くんのお肉食べてるんか気になる十代トリオが明日の日本に希望を抱かせました。

以上。

さて、気になる1点目、国の覚悟。

メダルのことを強調すると、決まって五輪はメダル競争じゃない、努力やひたむきさが大事、という声が飛びます。フリーで魅せた真央ちゃんのラストダンスは世界の涙を誘い、メダルを超える値打ちがありました。それが五輪の意義なのです。

さいでございますか。それならぼくは五輪に興味はありません。五輪が他の大会とは比較にならぬほど国の威信をかけて総力で激突する平和な戦争だからこそ、ぼくは血がにじむほど拳を握り声を張って応援しますし、他国の選手であっても素晴らしい姿には涙を流すほど入れ込みます。

アメリカに住んでいた14年前、シドニー五輪の際、アスキーの連載に寄せた文章があります。
 “中村伊知哉@LANTIC“「オレの声が聞こえたか高橋」
 http://www.ichiya.org/jpn/ASCII24/23.PDF
 抜き出してみます。


オリンピックのメダル数は国力を明示する。経済、文化、人口、食糧事情、政治力、気合い、などを総合した力。たとえば今回のメダル上位10ヵ国は、米露中豪独仏伊キューバ韓英。日本は15位。なんとなく納得がいく。

国旗や国歌をかけて闘うというのは、オリンピックやサッカー・ワールドカップやボクシングのタイトルマッチぐらいしかない。物流やネットで国境がなくなり、産業はボーダーレスとなり、通貨も統合され、仮にいずれ国際紛争も減少すれば、国家が存在することを確認できる場は稀になる。

だから高橋尚子は大変なことをした。 (略)


今回、ロシアのメダルは33(金13)。前回は15(金3)。総数で倍増、金は4倍増。覚悟と戦略による躍進だと思います。

日本は8(金1)。前回は5(金0)でした。メダル獲得ランクで前回の20位から17位に上昇しました。躍進したと見ればいいのでしょうか。でも今回は中国12位、韓国13位。劣っています。満足していていいのでしょうか。

クロカン男子独占のロシア、女子独占のノルウェー、スケートでメダル21を取ったオランダなど見るにつけ、今回はチームの技術と戦略が大きかった。その点、日本はどうだったでしょうか。

クロカン女子でノルウェー3人が一度もスキー交換をせずフィニッシュしたのに対し、日本は2回もピットインしました。勝てるわけがない。それはひとり選手の能力が問われるものではなく、組織としての技術力、情報力、そして戦略の結果なのでしょう。

8個のメダルのうち、雪は7で、氷は1。橋本聖子団長は「反省している」と語っています。氷の1が金だったから七難隠しているといいますか。パシュートでオランダと韓国の決勝戦を見ていて、かつて清水vsウォザースプーンの戦いなんて日本が金争いをしていた遠い日を涙目で想う次第です。

負けてヘラヘラすんな、と喝破したおじさんが叩かれていますが、共感する点はあります。参加してがんばって感動してありがとう。その優しさは日本の美徳で、だから日本はいい国です。でも、普段はそれでいいけど、五輪がそれでいいのか。

ただ、喝破するおじさんへの批判もわかる。おじさんの論拠は「税金を使ってるくせに」なんだが、国のJOCへの年間補助金は25億円にすぎません。この間のくだらない都知事選の費用50億円の半分です。もっと国費を出してから厳しくしたい、と感じます。

夏季冬季2年ごとにこれだけ熱中させてくれるイベントに、ぼくは年1000円払う用意があります。国民全員で1000億円。そうは行かないとしても、その1/10ぐらい出してもいいんじゃね?

国としてどこまで本気かつうことですね。ロシアは韓国のショートトラックの王者やスノボ大回転のアメリカ人を帰化させて金を取らせました。本気でした。東京五輪に向けて、日本はそんな覚悟を抱き、戦略を描けるでしょうか。

かつて五輪といえば、赤字に白抜きでCCCPとかたどったジャージの、いかつくて無表情な大きい人たちが、世界はまだ恐ろしやを表現していました。ところが今回、スタイリッシュでポップなBOSCOのユニフォームをまとったお兄さんお姉さんがにこやかにメダルを重ねてゆき、すっかりイメージを変えました。東京五輪に向けて、日本はどんなソフトパワーを発揮するのでしょうか。  (明日につづく)


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。