オバマ米大統領は4日、米議会に2015年度予算案(2014年10月~2015年9月)を提出した。米政府の予想を3500億ドル上回る3.9兆ドルの予算案の柱は、格差是正。前年度の赤字削減から、主軸がシフトしている。就学前の教育、職業訓練のため新たな予算を設けるほか、給付付き勤労所得控除(Earned Income Tax Credit)を約1350万世帯とされる扶養者のいない低所得者層へ適用範囲を拡大する。ポール・ライアン米下院予算委員長(ウィスコンシン州、共和党)やマリオ・ルビオ米上院議員(フロリダ州、共和党)が支持する同案向け予算は向こう10年間で600億ドル。またインフラ整備では道路に始まり鉄道、公共輸送の最新化を目指すほか、退役軍人向け支援や国立公園の改善を手掛けるため向こう4年間で3020億ドルを割り当てる。
前評判どおり、低所得者に手厚い予算案。
(出所 : Getty Images)
ポール・ライアン米下院予算委員長(ウィスコンシン州、共和党)とパティ・マリー米上院予算委員長(ワシントン州、民主党)が2013年12月にまとめた2年間予算案で、裁量的歳出の上限を2014年度は1兆120万ドル、2015年度も1兆140を万ドルで規定していた。しかし、今回のオバマ政権が提出した職業訓練や教育に割り当てる予算案には、「機会、成長、安全保障構想」と題した裁量支出の枠を超える560億ドルに盛り込まれている。
新たな予算の穴埋めに、高所得者層には実質増税を課す。ホワイトハウスがウォーレン・バフェット氏の名前をもじって呼ぶ「バフェット・ルール」を適用。高所得者層向けの税控除に制限を与え、実効税率引き下げを抑制する。2015年度で6510億ドルが見込まれ、10年間で1兆ドルもの増収を生み出す公算だ。
2015年度の歳出3.9兆ドルに対し3.3兆ドルの歳入を見込むなか、財政赤字は5640億ドルと国内総生産(GDP)比3.1%と予想する。2014年度の財政赤字6490億ドル、GDP比3.7%から改善する公算。過去最大の財政赤字を記録した2009年時点のGDP比10.1%から、約3分の1まで低減させる。2018年には、増収を支えにGDP比1.9%へ低下する見通しだ。
予算教書によると、オバマ政権は2014年成長率を3.1%と予想。ブルームバーグがまとめたエコノミスト予想平均2.9%、2013年の1.9%を上回る水準となる。失業率については、2014年につき6.9%、2015年は6.4%を予想。米1月失業率の6.6%から大幅な改善を見込んでいないことが分かる。
今年は中間選挙を控え米上院・下院そろって3分の1が改選を迎え、2015年度の予算教書が受け入れられる公算は極めて小さい。特に高所得者層への負担を強める内容とあって、ジョン・ベイナー米下院議長(オハイオ州、共和党)は「もっとも無責任な予算」、ライアン米下院議長も「(予算で民主党と共和党と対立する)現状を打破する内容ではなく失望的」と批判していた。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年3月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。