スマート制裁から戦略的制裁? --- 長谷川 良

アゴラ

ウクライナ情勢がいよいよ正念場を迎えてきた。同国南部のクリミア自治共和国が独立宣言を表明し、ロシアに編入される方向に突っ走ているからだ。

欧州連合(EU)は3月6日、ウクライナ情勢の険悪化に責任があるヤヌコビッチ前大統領やアザロフ前首相のほか、前検事総長、前内相、前法相ら18人のリストを作成し、その資産の凍結を決定し、即施行済みだ。

クリミア自治共和国がロシアに一方的に併合された場合、EUは更なる強い制裁を実施せざるを得ないと主張してきた。独メデイア情報によれば、、EUの対ウクライナ・ロシア制裁は3段階あって、最後の3段階ではロシア戦略的企業への関連機材禁輸、露国営銀行との取引中止などが含まれるという。
5f5d704a-s
▲WIIWの定期記者会見の風景(2014年3月13日、ウィーンのWIIWで)


ウィーンの国際経済比較研究所(WIIW)で3月13日、記者会見が行われたが、ウクライナ情勢と対ロシア制裁問題が話題となった。ウクライナ経済専門家のアストロフ氏は「ウクライナへのガスがストップされても欧州諸国への供給は継続されるだろうが、ウクライナがロシアの対欧州向けガス輸出を妨害し、モスクワの外貨源を止めるといった対応も考えられる」という。

一方、WIIWのロシア経済担当ハブリック氏は「欧州側の経済制裁はロシア経済に大きな影響はないが、欧米の対ロシア制裁はロシアへの投資環境を悪化させるから、ロシアの経済成長率にも影響が出てくることは避けられない。欧州とロシアにとってウクライナ情勢がエスカレートしないことがベストだが、状況は不透明だから正確な予測は難しい」という。

外交の世界では、欧米が実施した資産凍結、入国禁止などの制裁は「スマート・サンクション」(Smart Sanction)と呼ばれ、一般国民に制裁の悪影響が及ばないようにその制裁範囲を限定する。実質的な制裁というより、象徴的な意味合いが強い。ウクライナ情勢の悪化はそのシンボリックな制裁から実質的な制裁へ引き上げを余儀なくするが、どのような制裁が実際可能かでは欧米諸国の間で意見が分かれているのが現状だろう。
 
スマート制裁には効果はあまり期待できない。戦略的制裁へ格上げをした場合、制裁される側だけではなく、する側にも一定の痛みが伴う。WIIWはEUの対ロシア貿易・金融制裁の実施は「非現実的なシナリオ」と受け取っている。

なお、WIIWはロシア経済の現状を‘Stuck in Transition’と表現している。国民経済の多様性、近代化の発展に欠け、社会の無気力と腐敗が拡大する一方、欧州経済の回復が遅れていることもあって欧州向けの原油・ガス輸出も伸び悩んでいる。WIIWはロシアの14年経済成長率予想を1・6%と下方修正している。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年3月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。