「私の神」と「あなたの神」の和解 --- 長谷川 良

アゴラ

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は唯一の神を崇拝する宗教で一般には「唯一神教」(monotheism)と呼ばれるが、「拝一神教」(monolatry)は一神教だが、他の神々の存在を認めている。古代イスラエルの信仰は民族の神ヤハウェだけを崇拝する拝一神教だった。拝一神教を「民族の神」への信仰であり、「世界の神」を信じる唯一神教とは異なる、と解釈する宗教学者がいる。


唯一神教の場合、(正しい)神は唯一だという立場だから、それ以外の神崇拝は偶像崇拝(悪)と切り捨てる。その結果、唯一神教を信じる信者、民族同士がその“本元争い”で戦いを繰り返してきた。

唯一神教の中でもローマ・カトリック教会の場合は極端だ。「イエスの福音の真理を継承しているのはわれわれだけだ」といった真理独占を主張するから、他宗派との争いは絶えなかった。

バチカン法王庁教理省(前身、異端裁判所)が2007年に公表した「教会についての教義をめぐる質問への回答」と題された文書には、「ローマ・カトリック教会はイエスの教えを継承する唯一、普遍的なキリスト教会だ」と主張している。ローマ法王ヨハネ・パウロ2世(任期1978年10月~2005年4月)が公表した「ドミヌス・イエズス」(2000年)も同じ内容だ。

ちなみに、カトリック教会の「真理独占」宣言に対し、バチカンと険悪な関係が続くロシア正教は「われわれ正教こそイエスの教えの真の継承者だ」と主張し、バチカンの「本家宣言」に挑戦している、といった具合だ。

当方が米ユダヤ教宗派間対話促進委員会事務局長のラビ、デヴィト・ローゼン師(David Rosen)から聞いた話だが、タルムード(モーセが伝えた律法)の中に「たとえ道理が純粋ではなくても、全ての人に良き結果をもたらすのならば、その良きことをすべきだ」という箴言があるという。

このタルムードの内容は宗教を考えるうえで役立つ。高等宗教は基本的には同じ目的を持っている。山の頂上に向かって選ぶルートは個人、民族によって異なるが、同じ頂上を目指している。これは前法王べネディクト16世(任期2005年4月~13年2月)が嫌悪し、批判してきた真理の相対主義ではない。頂上という絶対真理に向かってさまざまなルート(相対的)が存在するということだ。他の宗派を排斥する必要はない。「人に良き結果をもたらすならば、その良きことをすべきだ」という寛容な姿勢が求められる。

十字軍戦争のように、唯一神教の世界では「善」と「悪」の戦いが繰り広げられ、拝一神教の世界では「私の神」と「あなたの神」との闘争が展開されてきた。世界各地で展開されている民族紛争はまさにそれだろう。

いずれにしても、「私の神」と「あなたの神」の和解がなくして民族紛争の解決もあり得ないし、超教派活動も宗教の再統合も考えられない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年3月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。