資産運用の本来の目的

森本 紀行

資産運用の課題は、資産のもつ本来的な利息配当金を稼ぎ出す力を高めることである。利息配当を稼ぎ出す力が増せば、結果として、時価は上昇する。資産運用とは、資産の配分を工夫し、また各資産のなかでの収益性改善努力を通じて、資産から生まれる利息配当金の期待収入額を増やすことである。これが、投資の基本だ。では、資産から生まれる利息配当金の期待収入額を増やすというのは、どうすることなのか。


不動産投資は、ただ単に不動産を所有することではあり得ない。同じ物件でも、テナント政策や営業の巧拙、改修等の管理方法の巧拙によって、賃料収入の量と安定性は、異なってくる。賃料収入の量と安定性を高めるように不動産を管理することが、不動産投資の意味である。

株式の理論価格は、将来にわたる受け取り配当金額の現在価値である。これは、不動産の理論価格が、将来にわたる賃料収入(諸コスト控除後の賃料)の現在価値であるのと全く同じである。しかし、企業の株式を取得することによっては、将来配当を増やすような管理を行うことはできない。そのような管理は、企業の経営に委託されているのだ。ここが、株式投資と不動産投資の基本的な違いである。

では、企業における将来配当の量と安定性を高める経営とは何か。これは、企業経営の本質である。論点は一点。即ち、将来配当の期待値を高めるということは、現在配当を増やすことではないということだ。

内部留保を将来へ向けて積極的に投資するからこそ、将来における配当の期待値が上昇するのである。一方で、企業経営が、将来の成長にとっての必要不可欠な資産の構成、効率的な資産の構成に、徹底的にこだわるならば、過剰な内部留保は配当され、不稼動資産は売却されて配当されることを通じて、結果的に現在配当も増える理屈である。このように、効率的な資産管理を通じて将来成長を実現する企業へ投資することが、株式投資の本質に他ならない。

債券というのは、利息額が固定されている投資対象である。利息額は増やしようがない。故に、債券投資では、絶対的な利息額が本来あるべき利息額よりも大きいかどうかを問題にしている。つまり、本来の利息額よりも、余計に利息が取れる債券が価値のある債券という判断である。本来の利息よりもより多くの利息を取るというのは、利息を増やすのと同じことである。

さて、以上のように、投資ということを、投資対象資産の持つ将来的なキャッシュフロー(利息配当金)の創出能力を高めることだとすると、投資が効率的に行われる限り、投資対象資産の価格は上昇するはずである。投資が効率的かどうかの指標は、結局は、利息配当金収益と、価格の上昇を総合したトータルリターンになる。

そして、そのトータルリターンと市場平均とを比較することにも、一定の意味はあろう。しかし、結果と目的は峻別されるべきだ。結果的に価格の上昇が起きることと、価格の上昇を目的とすることとは、全く異なる。市場平均と比較することで投資成果を評価することと、市場平均に勝つことを運用の目的とすることとは、全く異なる。学問の目的が良い成績をとることではないように。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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