国の予算は95兆円ではない

小黒 一正

昨日(3月20日)、2014年度予算が参院本会議で可決・成立した。その際、一般会計予算の歳出が過去最大の95兆円になった旨の報道が多くみられた(注:日経の掲載は悪意はないため、ご容赦下さい)。しかし、国の予算は一般会計予算のみではなく、誤解を招くことから、国の予算の全体像やその中身を報道するように慣例を変える方がよい

14年度予算が成立 歳出、最大の95兆8823億円 戦後3番目のスピード成立(日本経済新聞・2014年3月20日電子版から抜粋)
一般会計の歳出総額は過去最大の95兆8823億円。4月の消費増税後の景気底割れを防ぎ、経済再生を狙う施策に重点配分した。2月に成立した5兆円強の13年度補正予算と合わせると歳出規模は100兆円を超える。(以下略)


国の予算というとき、一般会計予算を指すことが多いが、本来は一般会計予算、特別会計予算、政府関係機関予算の合計となる(注;これら当初予算とは別に補正予算が打たれればそれも勘案する必要があるが、以下の議論では省略する)。しかし、これから3種類の予算は互いに独立しているわけではない。

まず、一般会計予算から特別会計予算や政府関係機関予算に対しては様々な財源の繰り入れが行われており、特別会計予算や政府関係機関予算から一般会計予算にも事業で発生した利益などの繰り入れが行われている。また、特別会計予算は、一般会計予算のみでなく、他の特別会計とも相互繰り入れを行っている。したがって、3種類の予算を単純に合計して国の予算規模を知ることはできない。

このように国の予算の流れは複雑であり、一般会計予算、特別会計予算、政府関係機関予算の相互関係を詳細に把握することは容易ではない。このため、財務省は、各会計予算の歳出・歳入を単純に合計した「総計」だけでなく、総額から会計間取引の重複分を除いた予算の「純計」を公表している。

アゴラ第80回(図表)

この図表は2013年度の各会計の予算総額(当初予算、原値を四捨五入)を表し、一般会計の歳出総額は92.6兆円、特別会計の歳出総額は386.6兆円、政府関係機関予算の歳出総額は2.5兆円となっている。これら予算の歳出総額の合計は481.8兆円にも達するが、重複分(256.6兆円)を除いた純計は225.2兆円に過ぎない。つまり、国の予算の全体像である2013年度の歳出(純計)は225.2兆円となる。

同様に、一般会計の歳入総額(92.6兆円)、特別会計の歳入総額(408.5兆円)、政府関係機関予算の歳入総額(1.7兆円)の合計は502.8兆円に達するが、重複分(258.5兆円)を除いた純計は244.3兆円である。よって、国の予算の全体像である2013年度の歳入(純計)は244.3兆円となる。

以上と同様、2014年度の国の予算は一般会計予算の95兆円でなく、特別会計予算や政府関係機関予算も統合し純計をみて判断する必要がある。国の予算の全体像である2014年度の歳出(純計)は239.4兆円となっている(注:2014年度の歳入純計は現在のところ不明)。

なお、一般会計を除き、国の予算の歳出・歳入が一致しない理由は、特別会計や政府関係機関の予算は単年度で歳出・歳入の一致が必ずしも求められていないからである。

例えば、国債整理基金特別会計は、国債の償還スケジュールに合わせて償還をする一方、償還の原資は一般会計から定率繰入れで受け入れており、歳出・歳入が一致しない。また、翌年度の償還に必要な原資を、当年度に前倒しで借換債(いわゆる「前倒し債」)を発行して調達することがあり、この場合、歳入は当年度、歳出は翌年度に計上されることとなる。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)