IP2.0プロジェクト、始動(下) --- 中村 伊知哉

アゴラ編集部

IP2.0プロジェクトでのぼくのプレゼンメモ。続きです


現在、マルチスクリーン、クラウドネットワーク、ソーシャルサービスが同時進行している。

この状況が進むことで、見えていることもある。


1 文字→映像
文字ベースが映像ベースになっていく。いや文字ベースを映像ベースで上書きし、2つのOSが並走する、とした方が正確か。

アルタミラやラスコーの人類のように、映像で考えて映像で表現することが当たり前になっていく。これは退化ではない。かつて捨てた能力を再構築するのだ。

2 プロ→ユーザ
一部のプロからユーザ、みんな、へのパワーシフトが進む。進んでいる。誰もが24時間コンテンツを作って発信する。コンテンツはコミュニケーションと同義になる。

国民のデジタルでの創造力・表現力が国力を左右する。日本のモバイルユーザの情報発信量は断トツ世界一という。若い世代のデジタル活用能力で世界をリードする日本は、国際競争力を発揮する大きなチャンスを迎える。

その裏返しで、コンテンツを巡るトラブル、例えば炎上などの社会問題も日本では大きくなる。2013年には炎上を引き起こしたユーザの民事・刑事問題が沸き上がったが、炎上をあおるユーザの責任が問われる事態も想定される。

パワーシフトという点では、GoogleやAppleのように国家を上回るパワーを発揮するグローバルなデジタル系企業も増加するだろう。企業と国家を巡るガバナンスは重要課題となる。

3 アトム→ビット
MITネグロポンテが唱道したアトムからビットへの転換、リアルからバーチャルへのシフトは完成する。

パッケージコンテンツはネットに移行し、12兆円のコンテンツ産業の大半がバーチャルにシフトする。紙はなくなる。

買い物はリアルからオンラインに移行する。小売り135兆円のうち電子商取引は5%だが、50%ぐらいまで高まるのでは。それはコマースが巨大なコンテンツ産業になることでもある。通貨のデジタル化も進む。これは通貨発行という国の基本機能との深刻な対立をはらむ。

全ての子どもがデジタルで勉強する。教育がコンテンツ化する。教育ビジネス20兆円の数割がコンテンツ産業となる。医療、30兆円ビジネスも同様だ。

エンタメコンテンツ12兆円は海外以外に伸びる見込みはない。だが、リアル領域をコンテンツ化すれば、大きく伸びる。

ここまでは見えている。さらに、それを超えた次元で起きることが重要だ。

それを空想しなければならない。

とはいえ、そう遠くなく実現することがたくさんありそうだ。

一例を挙げよう。

15年前のMITメディアラボでは、ウェアラブルコンピュータで暮らす研究員が何人もいた。技術はできていた。しかし、グーグルグラスは今になってようやく商品化する。新しい技術が登場して普及するまで、それくらい時間がかかるものだとも言える。

当時見えていたデジタルでオンラインの世界は、15年で普及した。その次、15年前にメディアラボが目指していたような世界がようやく来るのかもしれない。

Intelligent、Wearable、Ubiquitousといった方向性。

言い換えると、「かしこくて、いつも、なんでも」。

1 Intelligent : かしこい
メディアが私の代わりに自動的にどんどんコンテンツを生んでいく。
世界中のコンテンツを処理・消化していく。
自分のエージェントが自律的にネットの世界を生きて、表現・発信していく。

2 Wearable : いつも
モバイルは「いつでも」だったが、Wearableはスイッチをオフしない。
24時間「いつも」つながっていて、常に見聞きした情報コンテンツを発信しつづける。
触覚情報もニオイもコンテンツとなる。
自分の脈拍や脳波もコンテンツとなって発信される。

3 Ubiquitous : なんでも
ビットが全てのアトムに入る。
町自体がメディアになり、コンテンツを発信する。
モノが発信する情報もコンテンツたり得る。
ロボットを遠隔地から操縦して動かすドラマもコンテンツになる。

さて、そうすると、これまでにない課題も発生してくる。

たとえば、自分とバーチャルの権利をどう扱うか。

エージェントが自分をどこまで代理できるのか。代理エージェントがしでかした発言や契約にどこまで責任を負うのか。

ウェアラブルで常時見られ、映され、蓄積される社会のプライバシーはどこまで保護されるのか。自分の情報をどこまでコントロールできるのか。ユビキタスにあふれる情報の洪水を遮断する権利はどうか。

また、モノの権利と責任をどう扱うか。モノが発生する情報に著作権はあるのか。モノが虚偽を唱えたらどうするのか。ネットで指令されたロボットが施した善行の権利や、しでかした悪行の責任はどうか。

もっともっといろんなことが起きそうであり、これまでにない政策イシューが発生してくる。

今日そこに踏み込む余裕はないが、それを空想して、つぶしていくという作業が大事だと考える。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年3月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。