日本はあくまで「西側」として行動すべき9つの理由

站谷 幸一

安倍首相は当初の逡巡をかなぐり捨てて、遅まきながらロシアに対して厳しい態度を取り始めた。しかし、未だにその姿勢は西側諸国でもっとも甘い。今月25日にロシアの国営メディアが、「日本の制裁はG7で最も緩やかな制裁」と評価した由縁である。だが、本稿では、我が国がより強固な対ロ制裁を敢行し、可能性は低いが仮にウクライナとNATOの連携が加盟に至ったとしても強固に支持すべきであり、それが実は日露関係の発展にも資すると指摘するものである。


(1)制裁で手加減しても北方領土は帰ってこない
制裁で手加減してプーチン大統領に恩を売って、北方領土交渉を優位にしようという主張があるが、本当にそうだろうか。プーチン大統領という、反動的かつ力の信奉者が、「米国が怖いけど、ロシア配慮して非難しない(制裁を手加減)」して恩を感じるような生温い人間なのだろうか。

かつて、我が国は独ソ戦に介入せず、鈴木貫太郎首相がスターリンは西郷隆盛みたいで話が分かるといって講和仲介を依頼したが見事に裏切られた過去に学ぶべきではないか。

(2)ロシアのやり口を認めては、北方領土が仮に返還されても無意味
そもそも、こうしたロシアの武力による国境線の変更を否定せずして、北方領土が返還されても無意味ではないか。返還が2島か面積当分の2.5島か4島になるかはわからないが、少なくとも2島であっても現地のロシア人が残る可能性は高い。既にロシアは大幅なインフラ投資を行っているし、クリミアとてロシア人は住み続けた。実際、過去にも日露混住の案が出ている。

もし、そうなった場合に、日露関係が悪化したらどうなるだろうか。ある日、謎の武装集団が北方領土に出現し、住民投票が行われ、南クリル共和国が誕生するだけだ。しかも、その時に欧米に助けを求めても冷たい反応が返ってくるだけだ。こうしたやり口を行う国から返還してもらっても意味がない。

(3)現時点での仲介外交は無意味
今は中立的なポジションを維持し、ロシアと米国の仲人になるべきとの意見もあるが、これも間違っている。紛争がヒートアップしている時に仲介外交を敢行するというロジックは、アフガン攻撃やイラク戦争直前に反戦市民団体が言ってた論理と同じであり、まさしく空想的かつ現実主義の欠如でしかない。

実際、我々はイランと米国に対して、何度も同様の行為を試みたが、結局はアザガデン利権などを虚しく失う結果に終わってきたし、第二次大戦中に独ソ和平仲介等と言って、大失敗したではないか。仲介外交という選択肢は後述するように否定しないが、現段階のヒートアップした段階で出来ると考えるのは自己の能力に対する奢りでしかない。

(4)中立的なポジションは百害あって一利なし
そもそも、紛争時における中立的なポジションは双方から嫌悪されるだけで無意味だ。この点について、かのマキャベリは以下のように鮮やかに喝破している。

「君主が真の味方であり真の敵になるとき、すなわち、何の憚りもなく、一方に味方し他方に敵対する態度を明確に示すとき、その場合にも君主は尊敬される。このように旗幟を鮮明にする態度は、中立を守ることなどよりも、つねに、はるかに有用である。

なぜならば、あなたの近隣の有力者二人が殴りあいになって、その一方が勝ったとき、勝利者に対してあなたが恐れを抱く必要があるか、ないか、が問題になるから。

二つの場合いずれであっても、あなたは旗幟を鮮明にして、戦う態度を明らかにしておいたほうが、つねに、はるかに有利である。

なぜならば第一の場合においては、もしもあなたが態度を明らかにしなければ、あなたは必ず勝ったほうの餌食になり、負けたほうはこれを喜んで溜飲を下げるだけであるから。そしてあなたには身を守る理由も、身を寄せる場所もなく、あなたを受け容れてくれる人もいなくなるから。

なぜならば、勝ったほうには、逆境のなかで助けてくれなかった疑わしい味方など、要らないし、負けたほうには、武器を執って自分と運命を共にしたがらなかった、あなたのことなど、受け容れられるはずもないから」

マキャベリの箴言に従うならば、ロシアに味方して、米英と対立する選択肢はあり得ず、当然、米英と共同歩調ということになる。プーチン大統領とて、「制裁緩和で恩を感じる」という、いじめられっ子のような理屈よりも、マキャベリのような力の論理をこそ認めるだろう。

(5)今日はウクライナ、明日は台湾と尖閣諸島
何故、この問題でロシアの行動に厳しい態度をとるべきか。それは安倍総理自身が「力を背景とした現状変更は決して許すことができない。アジアでも起こり得る」とG7で訴えたと語っているように、こうしたやり口を認めては、ある日、尖閣諸島なり那覇に謎の武装勢力が出現して占領→中国住民増加→住民投票となっても、そして、台湾の現在の混乱が加速化し無政府状態となり中国が介入しても、その際に日本は国際社会を味方に出来なくなるからだ。第二次大戦で我が国がそうであり、現在のロシアがそうであるように、ただ「自国の脅威だから」とセルフィッシュな説明は国際社会で説得力を持たない。

であるならば、石破幹事長の邦人保護のようなもので正しい行動発言だとか、麻生副総理のロシア擁護発言は、台湾や沖縄を含む南西諸島を危殆に晒すものでしかない。安倍総理は、アジアでも起こり得ると思っているのであれば、米国の基準かそれ以上の制裁を直ちに実施するべきだ。

シリア問題で露呈した、米国の抑止力低下、平たく言えば「必ず報復する米国」という印象を低下させるべきではない。要するに、中国や北朝鮮に米国与し易しと思われるわけにはいかないのだ。少なくとも、それが米国の拡大抑止力に依存している我が国のとるべき方策だろう。

(6)出がらしのウクライナより、独仏の対中武器流入を警戒すべき
中国に空母を初め、数々の技術を流出させてきたウクライナを支援するべきではないという意見があるが、これも正しいのだろうか。ウクライナの保有する技術は四半世紀前のソ連軍の残り香であって、目ぼしいものは既に中国に渡っていると考えるべきだろう。いわば出がらしの「鶏肋」である。

勿論、まだまだ残っているとしても、では、日本がロシア側に加担したからと言って、中国への流出がやむのだろうか。そんなことはないし、むしろ形勢不利なウクライナはより中国との関係をより深めるだろう。むしろ、日本がウクライナに恩を売ってそれをけん制するべきだ。また、西側に加担することで、ウクライナ等よりはるかに最新技術の独仏の中国への技術流入を出来るだけ減少させ、対中武器輸出緩和を阻止することを目指すべきだ。

(7)厳しい制裁を行い、もっとも早い制裁解除でロシアに恩を売る
西側に加担した場合、出口戦略はどうするのかという疑問があるだろう。既に述べたように、プーチン大統領は力の論理こそを信じている。であるならば、厳しい制裁を行い、もっとも早い制裁解除でロシアに恩を売るべきだ。

つまり、最初に日本の重要性を「制裁」によって、印象付け侮れない存在とする。そして、現在の緊張状態が峠を越し始めてから、もっとも早い制裁解除を行い、西側との仲介を図ることで、ロシアに貸しを作るべきなのだ。この力の論理に基づいた方法こそが、力の信奉者にはもっとも感謝される。

実際、我が国は、天安門事件後、1992年に陛下の訪中を実現させ、直後に対中制裁を解除した。そして日本の行動に欧米諸国も追随し、関係正常化へと走り、中国への大きな貸しとなった。(事実、1998年の江沢民訪日まで、江沢民ですら日本に融和的だった)

(8)中国に対して国際言論戦で優位に立てる
オバマ大統領は、「欧州が何世紀にもわたる闘争から築き上げてきた民主主義や自由といった理想や国際秩序が、古めかしい力への信奉によって試されている」と喝破したが、この言葉を否定して、ロシアに対する日和見的な行為に走って、私たちは中国を批判できるのだろうか。「西側」にこれまでいた意味を良く考えるべきではないか。

そして、現在の中国の日和見的姿勢はチャンスと考えるべきだ、こうした力による国際秩序変更を肯定する中国、それに反対する、自由主義、民主主義、平和主義を尊重する日本という構図を、現在の国際言論戦で展開する良い機会と考えるべきだ。であるのに、何が悲しくて、自由と民主主義の我が国が、一党独裁の中国と似たり寄ったりの姿勢を取らなければならないのだろうか。これ以上、中国も日本も道義的に似たような存在という証拠を増やすべきではない。

(9)独善を選択し焦土と化した歴史を繰り返すべきではない
確かにウクライナの新政権は極右勢力もいる。その意味でプーチン大統領が演説で批判するように、西側の主張は偽善という評価を免れない。しかし、だからといってプーチン大統領の行動は独善でしかない。彼の主張には偽善すらないからだ。チェチェンの民族自決権を無視しているのがそのよい証左だろう。

かつて、近衛文麿は、「英米本位の平和主義を排す」論文において、英米の偽善的な現状維持政策を批判し、独善的な主張を行った。そして、戦前の日本はまさしくその路線をたどり、国際社会から孤立し、ドイツやイタリアのような信用できない味方しかいなくなり最終的に一木一草焦土と化した。

京都大学の中西寛教授は、このことを評して、「長期的に見ると、独善的な行動パターンは、強固な味方を持ち難く、従ってそうした政策が国際政治に持ち得る影響力も限られ、最悪の場合、孤立に導きかねない」と喝破した。

確かにプーチン大統領の論理はもっともらしく、英米の偽善を指弾する様子は痛快ですらある。だが、それは近衛文麿と戦前日本と同様の道であり、付き合うべきものではない。中西教授の指摘をかみしめるべきではないか。

結論
以上の理由から、我が国は、今までの対ロ外交というサンクコストを切り捨てられない駄目な経営者のような外交を捨てさり、ロシアに対して米国と共同歩調を取り、むしろ厳しい姿勢を選択するべきなのだ。

そもそも、これまでNATOの東方拡大に異を唱えず、日NATO協力を進めてきた日本が、今になってNATOと距離を取るのは米ロ双方にセルフィッシュな印象を与えかねい。我々は、戦後一貫して西側陣営として行動し、自由と民主主義、そして平和主義を強調してきた、これまでの外交原則を貫くべきだ。でなければ、それこそ価値観外交の名が泣く。

付記
私は100%欧米追従外交をしろと主張したいのではない。70年代に、対中東の資源外交、東南アジアには福田ドクトリン、とそれぞれ独自外交を行ったように大枠で一致させ、他では自由にやるべきと訴えたいのである。

また、オバマ政権が方針を転換し対ロ融和に走ればどうするのかという意見もあるだろう。その可能性は十分にあるが、その際は、他の同盟国と共にそれを断念させるべき努力するべきであろうし、それが無理ならば即刻、オバマ政権に同調すれば良いだけだ。

站谷幸一(2014年3月31日)

twitter再開してみました(@sekigahara1958)