大学授業料高騰下における夜間コースの可能性

本山 勝寛

近年、奨学金の貸与者数・滞納者数が急増していることに表れているように、大学授業料が一般家庭の家計を圧迫している。どんなに働いても給与が上がらないのに、大学授業料が高騰しているためだ。


国立大学は1975年の36,000円から1985年に252,000円、1995年に447,600円、2005年には535,800円と上がり続け、現在まで据え置き状態というのが現状だ。30年間で実に15倍にも急騰している。日本の経済成長が止まり、平均給与が下がり始めた95年からみても約10万円、20%増加している。私立大学も同年の推移でみると、1975年に182,000円、1985年に475,000円、1995年に728,000円、2005年に817,000円、2012年には859,000円と高騰し続けている。こちらも40年弱で4.7倍、67万円の急騰で、95年からは13万円、約19%の増加だ。

これだけ給与に対する授業料の割合が増えれば、奨学金を借りざるを得ない家庭が増えるのは当然だ。さらに大学進学率の上昇に伴い大卒者でも正規雇用に就職できないケースが増え、奨学金滞納者も同様に増えている。日本社会が直面しているこの構造的なジレンマに対して、奨学金制度や学生支援機構にのみに責任をなすりつけていては真の問題の解決にはいたらない。

一つの解決法は大学授業料を今より安くすることだ。国立大学は低所得層にも等しく高等教育の機会を提供するという機能もあるのだから、もっと授業料を安くすべきという意見は妥当にみえる。ただ、実際には東大をはじめ有名国立大学には私立高校出身の高所得層が多くの割合を占め、そういった家庭に応分負担を求めることは、現在の国の財政状況を考えるとしかたない面もある。そこで、低所得層には授業料減免制度が実施されており、国立大学の学生約15%が恩恵を受けている。私も大学4年間この授業料免除のおかげで、収入ゼロだった親に全くたよらずに卒業できた。この授業料減免制度を今以上に拡充し、家庭の世帯所得によって国立大学の実質授業料が定まる制度を徹底すべきだ。

もう一つ、大学授業料を抑えるために私が注目しているのは夜間コースの拡充だ。国立大学の夜間主コースは授業料が年間267,900円と一般と比べて半額だ。私立大学の夜間コースである二部も昼間のコースと比べておおかた半額ほどで、年間50万円ほどで国立大学と同程度で学ぶことができる。夜間というと、同じ大学の昼間コースより競争率が低いため結果的に偏差値が低く差別的な見方もあるが、実際に学ぶ内容は同じであり、就職率も大きくは変わらない。

経済的に余裕がない場合、日中にアルバイトをして夜に授業を受けることができるので、奨学金を借り過ぎなくてもすむ。私の場合は日中に授業を受けて夜勤(夜通し)のバイトを週2回していたので、その翌日の授業はかなりの疲労と睡魔に悩まされた。日中の時間を使えれば、大学で学びながらでも、より安定した仕事ができる。

文科省の資料によると、2007年時点で夜間コースのある大学は国公立で27校、私立で22校、合わせて49校と全体の大学数780校に対してかなり少ない。既存の大学施設を有効活用し、社会人や家計の厳しい世帯に大学教育を提供する夜間コースはもっと拡充されるべきのように思う。また、夜間コースで各分野の専門家が講師として教えるようになる機会が増えれば、企業を含めた社会の最先端の知が大学教育に還元されやすいシステムとなる。

国立私立ともにぜひ夜間コースの拡充を検討いただきたい。政府としても低所得層向けに学費を抑えたコースには積極的に補助を行い、教育格差の是正に努めるべきだ。

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学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。