市場化してはならない金融のあり方

森本 紀行

債権者と債務者の間の私的な相対(あいたい)取引である融資を市場化するのには、超えてはならない限界がある。2008年の金融危機の象徴である、いわゆるサブプライム問題は、個人住宅ローンの逸脱といえるほどの過度な市場化に起因する。


融資等の債権の証券化(流動化)については、高度に標準化された小口の原債権を多数集積することにより、信用リスクを統計的に計測・管理できることが、必須の条件であったはずである。債務者との直接的な交渉により個別的に与信リスク管理を行うことを原則とする融資についてまで、市場化することは、モラルハザードを引き起こすリスクが高いといわざるを得ない。

銀行は、預金という特殊な調達手段を特別に認可されていることの反対効果として、融資を通じて、産業界の資金調達を支援する社会的責務を負っていると考えられる。その責務から逃れることはできない。その責務を他者に移転するような債権流動化はできない、ということである。しかし、他方で、株式を上場している銀行は、自分の株式を市場化している以上、資本利潤率を度外視することはできない。

2008年の金融危機の重要な原因は、銀行等が、資本利潤率を上げるために、資産の回転率を上げようとしたことにある。つまり、融資実行と融資流動化の反復連続である。もしも、銀行経営についても、一般事業会社と同じような資本利潤率を基礎にした評価がなされるならば、金融危機の再来は、避けられないように思える。

金融という社会基盤そのものである銀行、いまや企業金融全体を統合する銀行については、その社会的責務にふさわしい経営評価の方法が必要なのだと思われる。預金という非市場型調達により、融資という非市場型運用を行うことを本業とする銀行の、その自行の株式が市場取引されていることに、根本的矛盾があるのだ。

だとすると、右の極には、市場調達中心で市場運用を主力とする上場企業としての銀行(もはや、規制上の銀行である必要もないかもしれない。いわゆるノンバンクの投資会社でいい)があって、左の極には、非市場調達で非市場運用を中心にする協同組織金融型の機関があるという、二極化に向かうのだろうか。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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