世界一のアーカイブ大国になりませんか? --- 中村 伊知哉

アゴラ

デジタルアーカイブを充実させよう。

政府・知財本部に「アーカイブタスクフォース」を置き、ぼくが議長となってデジタル資産の拡充策をとりまとめました。

アーカイブといってもいろいろあります。文化財、出版物、放送番組。ゲーム、アニメ、マンガ、音楽。公益的なものから、ビジネス的なものまで、さまざま。それらを総括したアーカイブ策を考えるのは政府として初の試みです。


アーカイブの強化は従来から叫ばれてきました。ではなぜ今?

二つ理由があります。

まず、政策的な意義の高まり。対外的に、五輪を控えクールジャパンを発信することが政府にとって重要課題であること。対内的には、本年度から教育情報化が本格化し、教材コンテンツのインフラが求められていること。いずれも2020年がターゲットです。アーカイブの政策ターゲットも2020年あたりに置くべきでしょう。

もう一つは、海外の戦略的な動き。特に欧米が急速に対応を進めています。特に欧州はネット時代のヘゲモニーは文化資産の発信にあるとみて公的関与を強めています。これに対し、GoogleをはじめとするアメリカIT企業がグローバルなコンテンツ管理を敷いています。

これまで、文化財、出版物、放送番組、映画、ゲーム、音楽など個別アーカイブの提案はありました。でも、総合推進策はありません。欧米が戦略的に動く中で、日本の姿勢を明らかにしたい。

情報の蓄積と発信は文化大国としての責務だと考えます。そしてそれが経済戦略に寄与するものでなければなりません。自分の食い扶持のためでもあります。

ただ、海外に日本の情報を発信することばかりでは、文化侵略という批判を受けることにもなります。そうではない。世界の中における日本文化の位置づけと役割を意識したい。ファンの多い日本文化が燦然と輝くことで、世界文化の多元性を増強する、地球への貢献策であるということも振りかぶって明確にしたいと考えます。

もちろん、課題は山積。政策としては、

1) サービス拡充:検索・ポータル・オープンデータ
2) 経済モデルの構築:二次利用など
3) 技術開発
4) 人材育成

といった柱があります。

サービス拡充では、ぼくはオープンデータを強調します。メタデータを整備して、各ジャンルのアーカイブ情報がヨコ連携できるようにすること。タテ・ヨコをつなぐ施策が大事です。しかもこの施策は知財本部とIT本部が強く連携することがポイント。タテ割り打破が隠れテーマです。

経済モデル構築もまた重要なテーマ。この分野は、文化財を国家予算でどうにかする論に傾きがちなのですが、日本にとってより大事なのは、産業界や一般利用者にとって値打ちのあるアーカイブを発展させ、利用を促進すること。それはビジネスとして、ないしは自律的なサービスとして成り立つかが根本課題。おカネの話をちゃんとしましょう。

孤児著作物をどう扱うの。著作権処理はどうするの。大事なことです。ただ、ぼくが日頃申し上げているとおり、それを著作権制度で解決しようとすると、時間コストがかかりすぎる。それより、たとえば孤児著作物を使ったアーカイブビジネス実験を実施して、経済モデルとして動くかどうかを検証する。動くなら民間が投資して回り始める。そういうアプローチを重視したい。

委員のみなさんの意見を聞いていて、思いました。

総合的な政策パッケージを強力に実行すれば、日本は世界一のアーカイブ大国になれる。だって、持ってるんだもん。貯めるものを。持ってるんだもん。発信するものを。

あとは、やる気の問題だ。

始まりました。アーカイブ政策。ここからが、勝負です。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。