なぜモスクワ特派員は「本」を書くか --- 長谷川 良

アゴラ

「プーチン大統領はクリミアの併合に成功し、国内で支持率を高めているが、同国の反体制派活動家は『プーチン氏の終わりの始まりだ』と予測しているよ」

ロシア語が堪能な友人のブルガリア人国連記者はこのように語る。

「欧米はスロバキア経由でウクライナへガスを供給することを考えている。一方、原油価格が1バレル100ドルを割り、70ドル、60ドルに急落すればプーチン氏は終わりだろう」というのだ。


同記者のロシア分析を更に聞いてみよう。

「もちろん、プーチン氏も何もせずして静観はしていない。中露両国はガス供給に関する交渉を10年余り続けてきたが、来月には締結する予定だ。交渉が長期化したのは、中国がロシア産ガスの価格を欧州レベル以下にしてほしいと強く要求してきたからだ。欧米側がロシア産ガス依存度を弱めていけば、今度はロシア側が大変だ。外貨獲得のために原油、ガス輸出先が急務となる。最大の顧客は中国だが、ロシアの台所事情を知っているので、北京側も価格交渉では強硬姿勢を崩していない」というのだ。

「クリミア併合でロシアへの外国投資はストップ、外貨も海外に流出している。プーチン氏はオリガルヒ関係者の出国を止めている。だからモスクワは現在、世界で最も多くの富豪が住んでいる都市だ」という。

「一方、英国サッカーのプレミアリーグの『チェルシー』のオーナー、ロシアの大富豪ロマン・アブラモヴィッチ氏はモスクワに帰国しないだろう。危険だからだ。そういえば、ロシア政権に批判的だったロシア人富豪ボリス・ベレゾフスキー氏は昨年3月、謎の死を遂げている」

「プーチン氏は国内経済の破綻から国民の批判をかわすためにクリミア併合を画策したのだ。ソチ冬季五輪大会で巨額の資金を投入し、国家の威信を内外に示したが、国内経済は完全に停滞している。そこでプーチン氏はクリミア併合という作戦に出てきたというのが、ロシア反体制派グループの主張だ」

「プーチン氏はここにきて反体制派メディア、ネットの検閲を強化してきている。2、3の著名なブロガーのアクセスは閉鎖されている。プーチン氏は独裁者の道をまっしぐらに突き進んでいる。レオニード・ブレジネフは18年間、ヨシフ・スターリンは30年間、政権に君臨してきたが、プーチン氏はスターリンを越えるのは難しいが、少なくとも24年間の長期君臨を狙っているはずだよ」というのだ。

友人はロシア人の反体制派政治家や海外亡命中の活動家のサイトを毎日、注意深くフォローしている。彼は「モスクワ駐在の西側特派員は必ずといっていいほど本を出版する。どうしてなのか君は知っているか。ロシアには毎日、考えられないほど多くの出来事が起きているからだよ。君もモスクワに駐在すれば、数冊の本は出せるよ」と、笑いながら語った。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。