楽観的に過ぎる日銀の思惑 --- 岡本 裕明

アゴラ

4月1日の消費税増税を前に多くの人は買いだめをされたようですが、私は4月になれば駆け込み需要があるような商品は価格は下がることを見越し、買いだめには否定的でした。事実、ある調査によると家電量販店の価格は4月1日以降、明白に下がり始め、8%の消費税込みの金額でも3~5%程度下がっていているようです。理由は消費税上げ1か月前頃から駆け込み消費を期待した売り手側が強気の価格設定を行い、品切れ御免のスタンスを取ったからであります。


高校生でも分かる経済の原則とはモノの価格は需要と供給が一致したところで決まります。これを如実に表しているのが株価ボードの「板」でしょうか? 売り方と買い方の様々な価格での注文状況が一目でわかり、例えば良いニュースがあれば買い方が売り物をブラックホールのごとく吸い取っていく様子は結構、おおーっ、と唸ってしまうことすらあります。

つまり、消費税増税前はマスコミに踊らされた「駆け込み祭り」の大好きな日本人がどっと押し寄せるという良いニュースがありましたから売り方である商店とすれば、安い価格で売らなくても大丈夫、というストーリーになっていたのです。ところが一旦、消費税増税が実施されると祭りは終わりますから今度は売り方の商店は売り急ぎを図ります。これが価格を下落させる一因となります。例えばあのエコ減税の後のテレビの価格の暴落ぶりは記憶に新しいのですが、消費者はテレビを買ってしまったら家電量販店のテレビ売り場は素通りでいくらで売っているのか見向きもしないということなのでしょう。

さて、先日、日銀は需給ギャップがマイナス0.1%となったと発表しました。内閣府発表のそれはマイナス0.7%でしたからやや隔たりがあるもののこの需要の回復が物価水準を安定的に引き上げ、2015年、16年とも2%のインフレ率を達成するとしています。この需給ギャップ、本当に埋まるのでしょうか?

日銀のシナリオは雇用改善と賃金上昇を拠り所にしています。つまり私が懸念する円安によるコストプッシュ型インフレではないというわけです。この雇用絡みの日銀の期待はやや、楽観的過ぎる気がしています。

日本は製造業中心で伸びてきた国です。この20年こそサービス業が主流となりつつありますが、依然、製造業が大手を中心としたピラミッド構造になっている点も否めません。そしてファイナルプロダクトを作る大手とコア下請けは海外進出を果たせますが、孫、ひ孫請けの中小企業は海外展開するための人的、資金的、ノウハウ的余力はなく、結局日本でとどまり、技術継承ができず、廃業している会社も多いのです。

20年の間に日本はサービス業を主体とした産業構造に変換してきたのですが、中小の製造業はその体質をなかなか変えることができないまま今日に至っています。結果としてグローバル社会に取り残されていた会社も多いということです。一方、雇用のミスマッチは至る所で起きています。若者のマインドはより働きやすい環境を求めてきました。素敵なオフィス、成長する企業、誰でも知っているあの会社などブランドとイメージを大切にしました。結果として建設業や介護といった人材が圧倒的に不足しているところが発生してしまったのです。

日銀のシナリオはこのミスマッチを読み込んでいない気がします。つまり、失業率は低いが非正規が三分の一の現状、そして賃金上昇、ベアがあったのは大手の一角のみであってそれが今後安定的に末端まで広がるとするのは出来過ぎた話かと思います。労働力は女性と高齢者によりある程度は確保できますが、それは潜在戦力を引き出しただけで根本的に人口が増えていないこの成熟国で総需要がさらに増える方法はある程度限定されていると思います。

物価は上がりそうですが、暮らし向きはやはりほとんどの家庭で変わらないか厳しくなるのは消費税云々というより日本の構造的問題ではないかと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年4月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。