イオンに続き、ビックカメラが格安スマホの販売を開始した。来月には、ヨドバシカメラも参入するという。
通信速度が遅いため、YouTubeや動画を見るのには適さないが、電話にメール、通常のWEBサイト閲覧はできる。何と言っても、月額3,000円程度(+電話代)と従来のスマホの半額以下で利用できるため、予想以上に広がるのではないだろうか。
メインターゲットと思われる高齢者層だけでなく、学生、主婦、、サラリーマン層も当初は様子見だろうが、この価格差は魅力的だ。事実、「とりあえずスマホは買ったが、電話とメール、WEBも天気予報とニュースくらいしか見ない」という層は少なくない。若者にしても、オンラインゲームはできなくなるが、「LINEやTwitter、Facebookされできればいい」という人なら、格安スマホに耐えられる。
これまで携帯電話料金が高いと思っても、ドコモ、au、ソフトバンクといった大手通信会社以外に事実上選択肢がなかった。多少の料金やサービスに違いはあっても、決定的な差ではなかった。そこに風穴があく意味は大きい。
振り返ると、同じような現象は過去にもあった。
1つ数万円が当たり前だったメガネ業界に、ZoffやJINSといった格安眼鏡店が席巻したケース
高額で複雑だった航空業界に、ピーチやジェットスター、エアアジアなどLCCが参入し、価格破壊を起こしているケース
などで、いずれも大手の寡占状態による高価格市場に、圧倒的な価格差で切り崩しを図っている。
ここで重要なのが、LCCも格安スマホも、その大手先行企業の築いたインフラやしくみを上手く活用しながら低価格を実現していることにある。
LCCは、空港設備や搭乗システム、パイロットなどの人材をローコストで活用し、高採算路線や最小限の設備、人員に絞ることで、徹底的に無駄を省いている。
今回の格安スマホも、仮想移動体通信事業者(MVNO)と呼ばれる日本通信やインターネットイニシアティブといった企業と、販売力のあるイオンや家電量販店が組むことで低価格を実現している。ドコモなど大手通信会社が築き上げた通信設備を借りるので、巨額の設備投資をかけずに済む。
さて、このように考えると、他にも格安○○が出てくる可能性のある業界が頭に浮かぶ。
日頃から「一定価格が維持されているが、他に選択肢がないため、仕方なかった」モノだ。
例えば、映画。
大人1,800円は高いと思う。というより、どんな映画も1,800円というのが不思議だ。製作費が全てではないが、100億円以上かけた超大作と、テレビの2時間ドラマのような内容の映画が、同じ料金というのは納得し難い。事実、シニアや女性といった対象者や時間帯を限定した値引きは行われている。そこで、業界の縛りがあるのだろうが、設備を簡素化させた1,000円映画館などがあれば流行ると思う。封切りから1ヶ月か2ヶ月経過した作品だけに限定してもいい。
あるいは、新聞。
毎日家まで朝刊、夕刊を届けてくれて月4,000円程度、1日当たり100円強という値段自体は正直高いとは思わない。しかし、ほぼ無料であるインターネットニュースとの比較で見れば、その中間1,500円~2,000円程度の価格破壊新聞が出てくる余地はあるのではないだろうか。
かなり以前の話だが、格安眼鏡店が登場し始めた頃、大手眼鏡チェーン会社の人が、「5,000円や7,000円のメガネなんて、主流にはなりませんよ。そもそもメガネというのは……」と言っていたのを思い出す。
変わらない業界なんて存在しない。
格安スマホ好調のニュースを聞いて、改めてそう思った。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”