大失敗の日米首脳会談(上):日米の不信を高めた安倍総理

站谷 幸一

先月末、日米首脳会談が行われた。本稿では、この会談における日本側の採点を安全保障の問題に限れば、40点の大失敗であり、安倍首相による同盟関係の運用は野田総理にも劣るものであると論じたい。以下では、まず抑止力や信頼関係の構築などの項目で採点し、最後に総括を行い、なぜ40点の大失敗なのかを論じたい。


1.信頼関係の構築に大失敗
(1)野田総理と違い、構築できなかった信頼関係

結論から言えば、点数は0点である。本音を言えば-50点にしたいくらいである。何故ならば、安倍首相は、オバマ大統領とまったく信頼関係の構築が出来ず、その責任の多くが安倍首相に帰するからだ。

まずは、オバマ大統領と信頼関係の構築が出来なかった証左を見ていこう。共同記者会見では、双方の呼びかけは以下のようなものだった。

「バラク、バラク→プライム・ミニスター・アベ→バラク→シンゾー→バラク→プライム・ミニスター・アベ→バラク→ミスター・アベ→バラク、バラク→プライム・ミニスター・アベ→バラク」

明らかにストーカーのように擦り寄る安倍首相をオバマ大統領が撥ねつけているのが分かる。安倍総理としては、親密さをアピールしようとしたのだろうが、これでは不味いラーメン屋がテレビに出るようなもので、中国や、安倍首相をストーカーと侮辱してきた韓国を喜ばせるだけである。

しかも共同記者会見では二人にはほとんど冷たい関係しか感じさせなかった。これは主観的なものではなく、野田総理とオバマ大統領のちょうど二年前の会見を見てみれば自明のことだ。

その際、オバマ大統領は「記者の皆さんに警告したい。野田首相は柔道の黒帯だ。もし非常識なことをしたら彼が守ってくれる」と笑いながら冗談を飛ばし、野田首相も、「パワーフォワードのオバマ大統領の後に、ポイントガードの野田からお話をさせていただきたいと思います」と見事に応じた。このやりとりの詳細はホワイトハウスの記録や当時の関係報道を見ていただければわかるが、明らかに安倍・オバマ関係とは信頼関係が違うのがわかる。

形式面を見ても信頼関係は感じられない。フォード大統領以来とされる夫人同伴もなく、夫人はほぼ同時期に中国で華々しいもてなしを受けるという結果に終わった(ある意味では中国へ人質に出したとも言える)。かつての中曽根総理のようにレーガン大統領を山荘に招き長時間話すこともなく、先日の習・オバマ対談のように別荘で8時間の議論をすることもなかった。

しかも極めつけは、安倍首相が共同記者会見の最後の最後に靖国問題を、それもネット右翼レベルの愚劣なロジックで正当化したことである。

仮に安倍首相の主張が正しいとしても、拙論で指摘したように知日派ですら持っている「安倍首相は何を言い出すかわからない男」という印象をオバマ大統領に与えたのは間違いない。事実、この発言中のオバマ大統領は、文末に添付した画像を見ればわかるように、険しい顔でそわそわし、最終的に安倍首相を睨みつけている。

そして、その報いはすぐにやってきた。米韓首脳会談でオバマ大統領は、「慰安婦問題は甚だしい人権侵害。戦時中のこととはいえ衝撃を受けた。おばあさんたちの声を聞き尊重しなければいけない。歴史を誠実かつ公正に認識すべきだと安倍総理も分かっていると思う(I think)し、日本国民は間違いなく(certainly)分かっている」と発言し、日本国民は大丈夫だけど、安倍総理は人権感覚が怪しいと示唆したのである(注1)。

これほどの面罵はないだろう。(うさみのりや氏は楽観論ともとれる内容を述べているが、こうした細かい表現をわざわざ使い、想定していたこと、それこそ彼の言う「大きな枠組み」から見れば間違いなく安倍首相への牽制である)

こうした状態を「ゆるぎない信頼関係」とは言わないだろうし、鳩山・オバマといい勝負の信頼関係と言うべきだろう。

(2)原因は安倍首相の基本知識のなさと無神経さ
なぜ、野田首相が出来たことを安倍首相は出来ないのだろうか。それは安倍首相のオバマ大統領の性格への根本的な無理解がある。複数の報道や聞き及んだ話によれば、安倍首相は、オバマ大統領について、「仕事の話ばかり」「ビジネスライクだ」と愚痴ったという。

だが、先述のように野田総理とは冗談を飛ばしているし、ノルウェー首相は「とても和やかで友好的だった。オバマ氏に会うといつも刺激をもらう」と言い、アイスランド首相は「本当に好感の持てる人だ」と言っている。オバマ大統領は各国指導者と気が合わないとは日本語報道ではあるが、必ずしもそうではない。勿論、米民主党の古手の人間は「人間らしさのない男」と言っているとも聞くが、総合すると、それは老人が「最近の若者は飲み会に付き合わない」と言っているようなものだろう。

実際、ジェフリー・ベーダー前NSCアジア上級部長は、オバマ大統領は「冷たいビジネスライク」ではない、と自らの回顧録で述べている。以下、引用しよう。

「オバマ大統領にとって、非現実的な期待を抱かせたり、その客人を公の場で脅したり辱めたりするのは、彼の流儀に反していた。同時に難しい質問をすることなく、おざなりで気楽な会話をするのも彼のやり方ではなかった」
「穏やかで率直、思いやりがあり、熱意があった(略)相手をじっと見つめて、注意深く正確に言葉を選び、慎重に話をした」
「同僚の一人は過去二十年間、オバマが癇癪を起こし、声を荒げるのを見たことは一度もない、と言っていた」
「外国首脳との会談では、オバマは発言要領から離れて、真剣で敬意のこもったやりとりへとぎくしゃくすることなく移行し、(略)ただ米国の主張を表明するのではなく、相手にもっとも影響を及ぼすような言い方で話そうとしていた」

勿論、この回顧録はホワイトハウスの検閲を受けているとのことであるし、元側近の著作ということで差し引かなければいけないが、オバマ大統領は「事務的」というより、まず仕事で信頼関係を作る主義であるだけで、熱心な人間ということがわかる。

これだけでも安倍首相のやり方がいかに間違っているということがわかる。まずは仕事で信頼関係を作り、寿司のような余技は最終日の最後の最後にやるべきだったのだ。信頼関係もないのに馴れ馴れしくバラクと呼んでみたり、靖国を海外には絶対通用しないロジックで正当化するのもすべきだったのは言うまでもない。だいたい、ゲストが食事を残しているのに、ホストが完食するのが「おもてなし」の精神なのだろうか?

結局、今回の日米首脳会談は、主に安倍首相の責任によって、両首脳の信頼関係に構築に失敗したばかりか、両者の隙間風を中国等にPRする結果となった。習主席や朴大統領を喜ばせたのは間違いなく、この面では鳩山総理と同レベルの「無能」の誹りは避けられない。

大失敗の日米首脳会談(下):瓶の底で叫ぶ安倍首相 」に続きます

以下の写真は、共同記者会見で靖国参拝を正当化する安倍首相に対して、苛立ち、睨みつける一連のオバマ大統領の様子です。
現状

注1:この部分は、新潟県立大学政策研究センターの浅羽祐樹准教授の指摘の引用です

站谷幸一(2014年5月11日)

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