引き返せるうちに中国の暴走を止めろ --- 岡本 裕明

アゴラ

中国が南沙諸島の暗礁に砂を入れて滑走路を建設か、という報道を耳にした時、中国はいよいよ引き返せない領域に入り始めたと感じたのは私だけでしょうか? 先日、ベトナムとその領有権を争う地域で突然石油掘削のリグを設置し始め、船の体当たりが行われているという報道があったばかりでその争いはまだ続いてる最中です。


中国の太平洋における動きは拡大を求める中華思想、爆走する中国軍部、領有権でもめる地域への侵攻というポイントを見て取れます。領有権が多少でもあいまいであれば侵攻して実効支配してしまう理由は二つあります。一つは資源確保で、もう一つは中国海軍が太平洋に出やすいルートの確保であります。

現在の中国の動きは戦前の日本の動きに重なるものがあります。それは膨張主義と軍部の独走、更に資源を求めるという流れであります。いまでこそ関係諸国が「大人の態度」を取っているので当時のように即戦争にはなっていませんが、今から100年前なら次の日には銃撃戦となっていたでしょう。これは明らかに中国の暴走であり、早く止めないと関連国の我慢の限界を超えることになります。

では日本が軍部独走をした時、政府はどういう態度でしたでしょうか? はっきり言って全く止められませんでした。挙句の果て政党政治は消え去り、軍部主導型の政治体制となったのです。中国の場合、共産党と軍部は一体であり、習近平国家主席が軍部のトップでもありますが、それが暴走してしまえば習氏といえどもコントロールできなくなる可能性があります。政府が無能化するときの例として中国の鉄道省の暴走とその結果招いた鉄道事故が思い出されますが、あれも鉄道省の利権確保が原因でした。軍部に同様のことが起きないとは言えないのであります。

私には軍部は実績作り=功績を上げることで中国権力社会における発言力強化を目指しているようにみえます。それは中国が国内問題山積であるがゆえにその間隙をついて軍部という蒸気機関車が爆走しようとしているとしたらどうでしょうか?

世論も黙っていません。アメリカもケリー国務長官の「挑発的かつ侵略的」という厳しい談話がそれを物語っています。一説にはアメリカがオバマ大統領のフィリピン訪問の際、フィリピンと軍事協定を結んだことが響いているということですが、尖閣についても日本の施政権を明白に打ち出し、中国膨張に対する包囲網ができたことで中国軍部を刺激しているとみることができるのではないでしょうか?

懸念されることは今回の争いが陸の上というより海の孤島をめぐる争いであるということです。これは戦争になりやすい状況にあります。なぜなら一般市民が住む陸上であれば当然、戦禍は軍人同士の争いではとどまらないのですが、人がいない島で争うなら軍同士の熾烈なるぶつかり合いを心理的に抑制させるものがないのです。

私は現代社会ではいわゆる戦争は起きにくいという主張を繰り返しています。それは経済的に成熟した国家であればあるほど民間施設を巻き込んだ戦争の損失は膨大になることが理由の一つに挙げられます。結果として仮に戦勝国が戦費の賠償を求めることになれば天文学的額の話となり、敗戦国の経済規模が大きければ大きいほど世界経済を破たんさせる引き金を引くということです。まさに第一次世界大戦のドイツの戦後賠償がイメージされるわけです(もっとも日露戦争で賠償金を取れなかった日本という例もありますが)。

仮に戦火を交える事態になれば経済制裁を伴う厳しい対応をすることは当然求められます。その主導はアメリカになるのでしょうが、アメリカは中国に対して経済制裁発動をしにくいのも事実です。中国が報復に出ればそれは泥仕合になることも容易に想像できます。GDP世界一位と二位の国が争い、三位の日本がその間に挟まれるという構図は想像しただけでも戦争規模のおぞましさを感じます。

もちろん、これらはかなり悪いシナリオ(最悪ではありません)ですが、世の中を標準化し、平静を保つ仕組みが実質的に地球上に存在しない現代において未来が予見しにくくなったともいえるのではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。