ウクライナ問題は今週5月25日の同国大統領選で最大の山場を迎えることになりそうですが、同国をめぐる一連の流れの中でロシアのプーチン大統領の動きの変化も大きな視点となりそうです。今日はプーチン大統領は何を考えているのか、そのあたりを追ってみたいと思います。
ざっくりおさらいすると争いの直接的発端は13年11月、ヤヌコーヴィッチ前大統領が欧州連合と政治貿易協定を見送り、ロシアにすり寄ったことから国内の激しい内乱が発生、同国の東部に多い親ロシア派が政権と対立する形となり、クリミアの独立、ロシアへの併合がその第一幕であったわけです。
この際、プーチン大統領は強気一辺倒で欧米の強い懸念を押し切り、ウクライナ軍を萎えさせ、プーチンの完勝で終わりました。足並みのそろわない欧米の経済制裁は煮え切れないものとなり、プーチンの独走を思わせるものがありました。
これに乗じようとしたのが東部ウクライナ、ドネツク、ルガンスク州の独立を問う住民投票でした。過激化した一部の親ロ派は自分たちもロシアに併合してもらえると思ったのでしょう。ところが、ラブロフ ロシア外相はそのつもりはないとかなり前から断言していた上に住民投票直前になりプーチン自身が住民投票の延期を求める発言をしたことでロシアのトーンは極めて明白となりました。しかし、ウクライナの親ロ派は上げた手を下せない状況で住民投票を強行、数字としての結果は独立を宣言することとなったわけです。
つまり、今の時点でウクライナ政府、独立宣言したドネツク、ルガンスク州、ロシアの三者がそれぞれ違う思惑を持っている状況になってしまったのです。
では私が考えるプーチンの戦略とはどういうことなのでしょうか?
一つにはドネツク、ルガンスク州をロシアが併合する積極的理由が見当たらないのだろうと思います。それをすれば当然、ウクライナを始め、欧米は黙っていないでしょう。ロシアにとってはウクライナはともかく、欧米とこれ以上、ことを荒立てることは戦略的ではないと考えた節があります。
理由はウクライナはエネルギーの供給を通じていつでもロシアが支配できる立ち位置ある一方、ソ連崩壊に伴う独立した旧ソ連邦諸国とのいざこざを今起こしている暇はないと考えているように見えます。つまり、プーチンの狙い先はもはやウクライナではないように感じます。
では、その眼は何処に向かうのか、でありますが、多分、私は中国との関係ではないかと思います。プーチンは5月20日に中国を訪れ習近平国家主席と二日間にわたり会合をしますが、主たるポイントはロシアが企てる天然ガス事業と価格が中国と折り合うか、これが主眼となります。おそらくですが、買い渋る中国に対してのお土産は東シナ海で行う両国の大規模軍事演習を通じて中国へ味方するゼスチャーではないかとみています。
ゼスチャーという意味はプーチンは中国に対して疑心暗鬼であり、心は開いておらず、「ディール」をしているようにしか見えないのであります。それは習近平も同じでお互いが仮面の付き合いをして仲よさそうなそぶりを見せるということではないかと感じています。
プーチンとしては中国への天然ガスの売り込みは絶対死守ですが、仮に中国がここでもぐずった場合、日本にチャンスが回ってきます。なぜなら日本がロシアの天然ガスディールをする理由がもう一つあるのです。それはシェールガスからは取れず、天然ガスからだけ採れるヘリウムが日本で不足しそうなのです。
ヘリウムは半導体、光ファイバーに欠かせず、MRIやリニア新幹線の超電導磁石の冷却剤にも使われます。代替財の開発が急がれますが、プーチンはこのあたりは計算済みかもしれません。よって、日本とこれ以上、ウクライナ問題を通じて交渉の芽をロシア側から潰すのは得策ではないと考えている節もあるとみています。
プーチン大統領は戦略家であり、ビジネスマンでもあります。ウクライナの大統領選挙はポロシェンコ氏の勝ちがほぼ見えており、彼が東部二州および、欧米にどのような姿勢を見せるのか、そこを当面は静観するのではないでしょうか? 一方、最大の関心事である天然ガスは売り先のカードをたくさん持っていた方がよい、そう考えれば日本を無下にはしない、というのが私の読みであります。但し、北方領土問題については数か月前の状態とはかなりかけ離れた気がします。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。