日本の株価が「ダラシない」理由 --- 岡本 裕明

アゴラ

澤上ファンドの澤上篤人社長のブログを時々拝見しておりますが、氏の一貫した日本投資家不在論はなるほどと思わせるものがあります。最近、目にした氏のブログもなかなか鋭いことを突いております。

(米国株は)日本株市場が、史上最高値の半値以下でウロウロしているのとはえらい違いである。こちらは超ダラシない。振り返るに、日本株市場は1989年の年末に史上最高値を記録した。それからもう、25年と4ヵ月が経った。その間に、米国株と日本株との間で一体どのくらいの差が生じたと思う?米国株は6倍強に上昇し、日本株は最高値の37%水準にある。なんと、16倍だよ。

日本はバブル崩壊後の不良債権問題が長く尾を引いたから?デフレ傾向に苦しんだのも大きかった?ちょっと待ちなよ。米国経済も、世界の金融バブル崩壊の直撃をもろに食らっている。その後の景気低迷も半端ではなかった。米国の失業率を見てみなよ。8%近くにまで跳ね上がって、いまだに7%台をウロウロしているじゃない。一方、日本の失業率は4%を切っているんだぜ。それでも、米国の株価は2008年9月のリーマンショック暴落から立ち直ってきている。それどころか、史上最高値更新の繰り返しだよ。

歯に衣を着せぬ氏らしいトーンであります。では、なぜ、日本はバブル崩壊後、株価は低迷し、企業は史上最高益を更新する中でアメリカと16倍もの格差をつけられたのでしょうか? これには氏の主張をある程度説明できます。その一つの検証としてPER(株価収益率)で比べると分かりやすいかもしれません。

PERは最近では14、5倍あたりが居心地の良さそうなところとなっています。計算上はPER15倍は利回り6.6%とも読めますから投資リスクを勘案すればまぁ、妥当な利回りとなります。

では日本がバブルの時ですが、PERは61倍にもなっていました。つまり利回り1.6%です。株価の振幅のリスクを取って1.6%というのはよほど将来の夢がないとあり得ないことになります。ならば、バブルの時に妥当な株価はPERからすれば日経平均は10000円でよかったということになります。ですので現在の14000円程度の株価は特に安すぎるという領域にはいないとも言えるのでしょうか?

ちなみにアメリカのPERの歴史を見れば1990年ごろは正に15倍程度でダウは2600ドル程度でしたから現在は株価は6倍に上がったということになります。PERで補正した1990年と今日の差異は日本が4割上昇に対してアメリカは6倍ですからこの差はざっくり15倍になり、澤上氏の指摘とほぼ同一になりります。PERで比較ですから企業成長率が違うというになります。

澤上氏のもう一つの点の失業率で比べた中でなぜ失業率がはるかに高いアメリカが日本より株価が高いのかですが、これはむしろ怨嗟と言った方がよさそうな気もしますが。ただ、氏のポイントは日本に投資家が育っていない、もっと長期的な目でものを見よ、ということで、それはその通り、同感いたします。

多くの日本人はバブル崩壊を通じて投資に封印をしてしまいました。結果として次世代が育たたないばかりでなく、株価はひと月かけて上りつめても3日で崩落してしまうという経験を積みあげてしまいました。株はショート(売りから入る)ことを次世代の人たちは儲けやすいと感じてしまったこともあるかもしれません。

証券会社の売買手数料が100分の1に下がった時、証券会社はどういう戦略を取ったでしょうか? 「安くする代わりにたくさん売買してね」でありました。この意味は短期売買を繰り返すことを証券会社として推進したわけです。これはいわゆるプログラム売買、自動売買に代表されるチャート分析が普及し、デイトレーダーなど会社を知らなくてもチャートは知っているという投資家を多く生んだのであります。つまり、真の投資家を育てなかったのは証券業界の怠慢でもあったと言えましょう。

もう一点付け加えるなら、日本の企業そのものに十分な魅力があったのか、という疑問は残ります。90年代はメインバンクの本業回帰コールで将来のための投資の芽を摘んできました。株価は決算という経営の実力と将来の成長力を反映します。本業回帰で縮んでいく(=退化していく)企業にどうして株価が上がるという期待をせよ、というのでしょう。上述のPER比較をするならば日本はもっとM&Aを通じた経営効率改善が必要だった可能性はあります。

そう考えると澤上氏の気持は分かりますが、日本の株価が上がらない理由は企業、銀行、証券業界、そして投資家すべてに問題を抱えていたともいえます。少なくともその中で企業、銀行のしがらみは現在、改善してきたと思います。だからこそ外資がこぞって日本株を買ったともいえるかもしれませんね。

株価刺激が首相の政策頼みという構図はある意味、責任転嫁ともいえるのかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。