ニフコという東証一部上場企業の会長が10億円の申告漏れで1億数千万円の追徴をされていたことが分かりました。この記事は主要紙でも取り上げているところが少ないのですが、読売だけは社会面トップでかなり詳しく掲載しています。こんな興味深い事件をなぜ日経が記事にしなかったか、これは不思議であります。
さて、この会長さんの税回避とは香港に2008年に移住し、住所も移したことでご本人は課税の主権は香港にあると認識していました。その後、日本での事業に本格復帰したものの香港の住所のままで「日本の滞在日数が香港を大きく上回っていた」ことや「ニフコの経営の実権を握っていた」ことからこの会長さんの生活の本拠は日本であり、日本で納税すべきであったと認定されています。
このニュースのポイントは富裕層が海外に永住権などを取得し、その国に納税することで日本国内の課税を免れるというスキームに困難性があるということを示しています。私も以前にも書きましたし、読売新聞の解説にも記載されているのですが、日本の国税局はいわゆる「武富士事件」と称される同社創業者の長男への贈与課税をめぐる1600億円の裁判で国税が敗訴、国は納付済みの同額プラス利息付保400億円を返還する大失態を演じたことから海外税逃れに極めて厳しい姿勢を貫いています。
今年から始まった海外資産を5000万円以上持っている人の開示義務も富裕層のキャピタルフライトを難しくすることになりそうです。
富裕層の節税や税逃れは日本に限ったことではなく、世界中で起きている問題であります。主要国は「とりっぱぐれ」をなくすため、あらゆる手段を駆使しております。いわゆるタックスヘイブンと称するスキームはおおざっぱにいえば税率の差額を利用して節税、脱税をするわけで一昔前はそれがうまくワークしていたのであります。ところが当局が目を光らせ始め、公認会計士会社のコンサル部門はこれを回避する裏技を見つけ出すいたちごっこで結果としてコンサル会社の懐を温めて来たのであります。
今回のニフコの会長さんの事件の場合、詳細は調査が必要ですが、日本での居住の事実をどう捉えるかが決め手になっているようにみえます。その文面からは注目すべき点は183日ルール(一年の半分以上を居住しているかで課税を決めるとするもの)から実質的な活動拠点の発想に変わってきているように思えます。それはパーマネントトラベラー(PT)と称する海外に3つ以上の居住地を設けることで一か所の滞在が年間183日に達せず、結果として課税主体の国が無くなる状態を作っているケースがあるということです。
二点目にニフコの経営を実質的にしていたという点に着目すべきです。実質とは「実務」と考えてよくその場に定常的に滞在し、業務を推進しているという意味です。これをわかりやすい例えにするとアメリカに業務出張で行く場合日本人はビザ免除規定がありますが、これは実務を含まない前提になっています。つまり、出張期間にアメリカでラインの仕事(従業員を使い、実質的な業務をすること)はダメなのです。
一言でまとめると日本で流行の富裕者キャピタルフライトはキャピタルだけフライトだけでなく自分もフライトしなくてはいけないということであります。棄民とまでは言いませんが、お金とカラダは一体であり、税金を逃れるのなら日本から引き払い、且つ節税したお金を子孫に引き継がせるには家族ともどもフライトしなくてはいけないということです。これができる人はほとんどいないはずで、日本の場合最終的に相続税で捕捉され、逃げることは不可能と言われるのはそのことなのであります。
ただ、税金を逃れてたいと思う気持ちは世の常。富裕層となればなお一層です。怪しげなコンサルなるものが耳元でささやくそのビジネスはきっと絶えないのだろうと思います。私もこんな世界をのぞき見してきていますが意外なあっと驚くスキームがまだありますからこのバトル、まだまだ続きそうです。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。