政府は産業競争力会議で専門職を中心とした週40時間の労働時間規制枠を外す方針決定をしました。今後、具体的なルール作りの策定に入ることになりますが、様々な意見が飛び交っております。以前、この話題が出た際には年収1000万円以上のような高度専門職の人を対象にするという趣旨でありました。
今回の決定の実態は、厚労省の年収基準を設けた「高度な」能力者に限定するというのに対して民間側は「課長補佐、チームリーダー」まで含めた導入を求めているところに大きな格差が生じています。最終的にどちらの主張が通るのか、見ものでありますが、仮に民間案が取り込まれることになれば日本の労働市場は大きく変わることになるかもしれません。
私は27歳の時に秘書室に異動したのですが、それまでの月々3000円程度の組合費が徴収されなくなりました。理由は秘書は組合員から外れる、だが、組合を通じて妥結した案はそのまま享受できるというものでした。ある意味、年間36000円の増収のようなもので得した気分でした。
次いで29歳の時、異動に伴い残業手当がつかなくなりました。海外転勤です。海外に赴任直後、海外関連会社の役員に就任しました。管理職ということでしょうか? 本社の身分も課長扱い。つまり管理職です。その時点で残業代で計算すれば約22時間程度の管理職手当を貰い、出勤簿から解放されました。ところがここから仕事地獄が始まります。
西海岸の場合、日中の通常勤務後、夕方に東京が朝9時を迎えるため、駐在員となれば、本社とのやり取りが欠かせませんでした。東京側も朝は会議だ、席をはずしているだ、で担当者と連絡がつくのは東京の午前遅くとか、下手したら昼過ぎになることもしばしばです。当然ながら会社で待機せざるを得ず、毎日12時間以上の勤務になってしまうのです。下手すれば、家に帰ってからも電話攻勢を受けたり、休暇中でも滞在先のホテルに電話をもらったこともたびたび経験しました。
私にとっては北米に着任して新たなるライフスタイルを見出していた時で夕方にはプライベートタイムやエクササイズする時間が欲しいと思い続けていましたが、当時の上司に「お前は仕事をしに来たんだ」と一蹴されます。結果として自由時間は就業時間前に限定され、朝6時にフィットネスクラブに通う毎日で毎朝5時過ぎに起きる「濃厚な」ライフスタイルに変わっていったのをよく覚えています。
多分ですが、あんな仕事ライフは好きでなければ絶対にやっていけないでしょう。「好き」とは将来社長になりたいとか、独立したい、金持ちになりたいという事業欲が強くないと難しく、趣味や家庭、自分自身のこだわりを捨てたくない人には厳しい選択となりうるのです。
今回の産業競争力会議で決定した労働時間規制緩和はその既定の除外事項である管理職規定をさらに緩和したいという民間側と骨抜きにする厚労省の戦いになっています。厚労省の主張する年収1000万円ものプロフェッショナルのみ適用というのは実質的に骨抜きでそれに該当する人はかなり絞られてしまいます。また、年収1000万円以上もらっている人が残業手当云々というのも奇妙な響きであります。
とすれば実態は民間側が求めているハードルの引き下げがより現実的なのかもしれません。仮にそうなれば多くの20代の人がその選択を求められる時代がやってくるのかもしれません。私が懸念しているのはその選択をする際にライフスタイル重視派、労働時間規制緩和=仕事人間を選ばない人が案外多いのではないかと想像しています。
欧州では一つの仕事を延々と続けながら人生を楽しんでいる人が多いと思います。仕事は収入を得る手段でしかなく、収入を通じたライフスタイルを最大の価値あるものとしています。成熟国家ならではと思いますが、日本も決して上昇志向が高いわけではなく、この労働時間規制緩和がどういう社会的影響を与えるのか、労働価値観はどう変わるのか、実に興味深いものがあると言えそうです。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。