ロシアのナルイシキン下院議長が来日し、日本の外交独立性を訴え、その上でロシアとしては北方領土解決に向けた準備がある趣旨の発言をしました。今後、今秋のプーチン大統領の訪日が予定通り実施されるかどうか、最終検討されることになるかと思います。
私の見方からするとプーチン大統領は来日すると思います。理由はシンプルでロシアは日本とディールすることでアメリカとの距離感を薄めたいと考えているように見えるからです。つまり、策士プーチン大統領はアメリカが徹底的に抵抗するであろう北方領土解決に向けて飴を提供し、日本とアメリカの舎弟関係に距離感を作る狙いがあるかと思います。そのためには日本と対話をし、北方領土解決というニンジンをぶら下げ、日本がロシアとの外交的距離感をより近くする作戦をとるのではないでしょうか? 但し、これが必ずしも日本が期待する北方領土問題解決につながるかどうか、これは別問題ですが。
ウクライナ問題でアメリカに同調してロシアへの制裁を行った日本はプーチン大統領から呆れられてしまいました。ただ、よくよく考えればこの行動はロシアは当然読めていたはずで「失望した」と発言したのも計算のうちだった可能性があります。その上で先日、中国を訪問しプーチン大統領と習近平国家主席との会合で蜜月ぶりを見せつけ、40兆円にも上るガスディールをまとめあげました。但し、ロシアが中国のことを真剣に好きなはずはなく、あくまでもビジネスディールを通じてアメリカの弱体化を図っていると考えた方が納得がいきます。
なぜロシアが中国と仲良くできないかといえば国境を接し、歴史的にも国境問題を抱えてきた上に中国の拡大主義に対してロシアの人口は1億4000万人強と中国の10分の1の水準であります。つまり、獅子と対峙となればロシアは西部防衛を含め、敵を作りすぎることになります。中国とは表面的にうまくやること、これがプーチン大統領が他の課題をそつなくこなす大前提になるのです。
その上で日本とはどうしてもディールをしたいことは山々です。日本にLNGを含む資源を売り込みたいこと、サハリンを始めシベリアの資源開発を日本と推し進めたいこと、北方領土問題を解決したいこと、日ロの貿易をもう少し増やしたいことなど、ロシアが日本に秋波を送る理由は十分あります。
日本は資源の供給先の多様化による安定は大きな課題であり、他国と比べ距離的に圧倒的に近いロシアとの交易関係は日本にもメリットは多大であります。
外交的に見れば北方領土問題解決と日朝国交正常化は日本にとって長年の課題でありました。安倍首相にしてみれば北方領土問題が解決でもすれば歴史に残る総理大臣になれることが確実となり、このチャンスは逃すわけにはいかないのです(安倍首相は今年9月で60歳ですから議員生命はまだ15年以上はあるはずで黒幕として余生の権力的絶対安泰が確保されます)。
ロシアは日本とアメリカの関係がかつての安保を通じた強い関係にはないとみています。様々な外交声明からは日米両国は新たなる関係を作り上げていると述べていますが、言葉と実態が伴っていません。アメリカからすれば言わされているという感じがありありと見えます。安倍首相とバイデン副大統領の関係もイマイチだし、オバマ大統領や大統領側近にも親日、知日派が少ないはずです。今週のG7も中国の東、南シナ海での秩序なき行動に対する声明は出そうですが、それが日本のためではないという点には留意をすべきでしょう。
ロシアはそのあたりを読み込んだうえで11月のアメリカ大統領の中間選挙のスケジュールを見ながらの訪日を通じて安倍首相とディールをするのではないかと見るのがまずは妥当ではないかと考えております。ロシアの野望に対して日本はどう対処するのか、日本の外交手腕に期待したいものです。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年6月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。