「国家公務員の扶養手当廃止 骨太方針、来年度にも 女性の社会進出促す」という産経の記事が静かに報道されていて驚いた。
政府が月内に閣議決定する経済財政運営の指針「骨太方針」に、国家公務員の扶養手当について、廃止する方針を盛り込むことが7日、分かった。夫の扶養手当を受けるため、妻が就労を制限している現状を踏まえ、国家公務員の手当を先行して見直すことで、民間企業にも廃止を促し、女性が働きやすい環境整備を進める狙いがある。早ければ来年度にも実施する。手当廃止による減収分は、家計支援制度を新設して補う方向だ。
国家公務員の扶養手当は、夫が扶養している妻がいる場合、月額1万3千円支給される。ただし、妻がパートなどで働き、妻の年収が130万円を超えると扶養対象から外れ、手当は受給できなくなる。
先日、配偶者控除廃止・見直しの方向性が政府によって打ち出されたが、子育て世帯への増税になるなどの批判の声から、具体的な結論は出さないという方針が政府税調で出されたばかりなのに、次は同じ理屈で扶養手当の廃止だ。国家公務員の配偶者の場合、月1万3000円の扶養手当だが、年間にすると15万6000円にもなり、配偶者控除の廃止よりも家計負担のインパクトは大きい。
報道だけでは、配偶者分のみ扶養手当を廃止するのか、子どもや高齢となった親などの分までを含めて扶養手当制度を廃止するのか明確ではない。仮に扶養手当制度そのものを廃止した場合、子どもや要介護の親を抱える世帯にはかなり重い負担がのしかかることになる。
さらにトリッキーなのは、これを批判の出にくい国家公務員から実施するという点だ。国民は公務員の給料が減額されることには文句を言わないどころか、むしろ称賛さえする。しかし、この政策の肝は国家公務員が見直すことで「民間企業にも廃止を促進する」という点だ。「お上も言ってることだし、女性の社会進出を促すために我が社も」と理由をつけて、普段から人件費を抑制したい企業は扶養手当を全面廃止することは容易に予想がつく。しかし、公務員だけは、「手当廃止による減収分を補う家計支援新制度」とかいうわけの分からない制度をさりげなくつくり、歳出削減にもならないというオチまでついてくるといった始末だ。
扶養手当廃止の促進は、政府による民間企業への子育て世帯への賃下げ要請、しかも年間15万円から40万円にもなる大胆な賃下げ要求といえよう。先般、賃上げ要請をしたばかりなのに、これではチグハグとしか言いようがない。
安倍政権が子育て支援に力を入れ、女性の社会進出を促そうとしていることは評価できる。しかし、女性が子育てや就労などの生き方を自ら選択できるようにすることと、子育て環境の整備も不十分なままに無理やり働きに追い出すことを同一視するのは危険だ。一歩誤れば、逆に少子化を促進し、取り返しのつかないことになりかねない。
国家公務員に関して話を戻せば、まずはブラック企業なみの長時間残業や、税金と官僚の人材を無駄使いしている国会待機をなくし、官僚の妻や子育て中の女性官僚の負担を軽減することからだろう。物事には「時」があり、順序というものがある。
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学びのエバンジェリスト
本山勝寛
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「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。