早瀬 佑一
エネルギー・環境研究会
(エネルギーレビュー誌2014年3月号に掲載)
(上)より続く
(3)再生可能エネルギー
再生可能エネルギーは、ほとんどCO2排出のない技術であるため、今後積極的な利用拡大が望まれる。その中で、水力、バイオマス、地熱は安定電源として有望視されているが、利用可能量に限りがある。一方、太陽光、太陽熱、風力は、気候や昼夜(日照)の影響が大きく、年間を通じて相当量のエネルギーが得られても必要な時に必要な量を生み出すことができないという欠点があり、安定電源としてはその能力の数%以下しか期待できない(注3)。
従って、これらの再生可能エネルギーを大規模に安定電源として活用するためには、火力発電・揚水(水力)発電等のバックアップ電源との併用や、大容量蓄電技術が必要になる。大容量蓄電技術は、長年にわたり研究開発が実施されてきたが、実用可能な技術の開発には相当な困難を乗り越えなくてはならないであろう。現在、再生可能エネルギーの開発に極めて積極的なドイツでも、次のような問題が生じていることは注意すべきである。
・風力、太陽光発電の内、安定電源と見なせる割合は、風力発電が7%、太陽光発電が0%[9][10]であるため、ピ-ク需要量と同等のバックアップ電源(安定電源)が必要となり、皮肉にも石炭火力を増設しているのが現状である[11]。
・大容量の風力・太陽光発電設備に対応するため、長距離送電線の新規建設が必要となるが、住民の反対運動等のため計画通り進展しない例がある[12]。
以上、エネルギー技術の大まかな特性と課題を示した。今後は、今世紀末までの世界全体の長期的なエネルギー需要量と利用可能なエネルギー資源量の見通しや環境問題を考えた上で各国ごとの国情を考慮し、各種エネルギーのバランスのとれた組み合わせを構築していく必要がある。
そのため、幅広いさまざまな分野の専門家が結集し、それぞれのエネルギーの現状、将来、長所、短所、特殊性について冷静に検討を加え、公正、中立、科学的な基礎データや新知見の収集、今後の研究開発計画等を含めた長期的な全体像の構築が欠かせない。健全で責任ある政策論議は、このような科学的パッケージをもとにして、初めて可能となるのではないだろうか。まさに、技術先進国、経済大国日本の重要な国際的役割と考える。
4・日本の特殊事情
エネルギー資源が乏しいわが国のエネルギーの自給率は4%(福島第一原子力発電所事故前の時点では原子力を含めても19%)と低く、一次エネルギー源のほとんどを輸入に頼っている。また、島国であるため、欧州のような国を超えたパイプラインによるガス供給や電力ネットワ-クがなく、他国とのエネルギーの融通がしにくい地政学的事情により、エネルギー安全保障に特段の配慮が必要となる。
わが国は、福島第一原子力発電所事故によって甚大な被害を受け、その復旧に手間取っていること等のため嫌原子力のム-ドが蔓延ししている。地震国であることと相まって原子力発電所すべてが危険なものであるかのような世論が形成された(注4)。いったん失われた信頼を取り戻すのは容易なことではないが、関係者の真摯な反省と行動に加え、世界最高水準の安全性の実現を根気強く追究していく姿勢が望まれるところである。
5・おわりに
世界の人口は現在の72億人から今世紀後半に100億人の大台に達するとの予想が国連から出されているが、この人口増に伴うエネルギー需要の増大が大きな課題である。
本小論では、今世紀末に、開発途上国一人あたりのエネルギー需要が先進国の半分程度まで伸びるとの仮定を立てて試算を行い、人口増加は40%でありながら、世界全体の必要エネルギー量はほぼ2倍になるとの結果を得た。節電・省エネ等により先進国のエネルギー使用量を抑えても、現在貧困層を多数抱えている開発途上国の経済発展の寄与が圧倒的だからである。これだけ大量のエネルギーをいかにして賄うかも難しい課題であるが、それに加えてCO2の排出をゼロに近づけるという難題も解決しなくてはならない。
エネルギー資源は、水、食料と共に既に世界規模の争奪戦が繰り広げられており、今後はさらに拍車がかかると予想される。必要なエネルギーをいかに安定かつ確実に確保するかは、先進国、途上国を問わず、世界的、長期的な視野に立って、資源と環境の連立方程式の解を世界レベルで求めなくてはならないであろう。
執筆に当たり、澤口祐介、佐賀山豊、佐藤浩司、田中治邦の諸氏のご協力に謝意を表す。
(注1)開発途上国の中で、2011年時点で一人あたりのエネルギー消費量が先進国平均の2分の1を超えているロシア、東欧及び中東については、それらの値のまま2100年まで継続(不変)する。
(注2)2009年のG8サミット(イタリアのラクイラ)において、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも50%削減するとの2008年の洞爺湖サミットで合意した目標を再確認するとともに、この一部として、先進国全体として2050年までに80%またはそれ以上削減するとの目標が支持された。また、地球の平均気温上昇を産業革命以前に比して2度以内に抑えるべきとの認識でも一致した[13]。
2010年の第16回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP16、メキシコのカンクン)では、「地球の平均気温上昇を産業革命以前に比して2度未満とするためには、地球全体のCO2排出量の大幅な削減が求められ、この長期目標達成に向けて締約国は緊急の行動をとる」ことが国際的に合意された[14]。
(注3)国際エネルギー機関(IEA)のWEO2013では、電力のピ-ク需要時に確実に使える電源を「安定電源」と定義している。例えば、欧州では、風力発電の5~10%、太陽光発電の0~5%を安定電源としている[2]。ドイツの「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」では、風力発電は設備容量の7%、太陽光発電は、その利用可能性が非常に変動するため、安定電源として含めることはできないとしている[10]。
(注4)3・11の東北地方太平洋沖地震時に宮城県女川町にある東北電力女川原子力発電所は、福島第一原子力発電所と同程度の津波に襲われ、一部損傷は受けたものの安全に停止すると共に、大きな被害を受けた女川町の人々の避難所としても重要な役割を果たしたが、一部のマスコミにしか取り上げられていない。
参考文献
[1]World Population Prospects:The 2012 Revision, United Nations(2013)
[2]World Energy Outlook 2013, OECD/IEA (2013)
[3]Energy Balances of OECD Countries:2013 Edition, OECD/IEA(2013)
[4]Energy Balances of Non-OECD Countries:2013 edition, OECD/IEA (2013)
[5]World Energy Outlook 2012, OECD/IEA (2012)
[6]Climate Change 2013:The Physical Science Basis, Working GroupI Contribution to the IPCC Fifth Assessment Report, IPCC (2013)
[7]「IPCC第5次評価報告書 第1作業部会報告書 気候変動2013:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(暫定訳)」、気象庁(平成25年9月27日)
[8]Nuclear Power Reactors in the World, Reference Data Series No.2, 2013 Edition, IAEA(June 2013)
[9]「ドイツの2050年電力計画を検証する」、小野章昌、日本エネルギー会議、2012年9月
[10]「ドイツのエネルギー転換-未来のための共同事業」、ドイツ政府資料、安全なエネルギー供給に関する倫理委員会へ提供、2011年5月、経産省資料
[11]「再生エネは原子力の代わりにはならない」小野章昌、エネルギーレビュー、2013年10月
[12]「ドイツの電力事情~理想像か虚像か」、国際環境経済研究所・竹内純子、2012年9月
[13]「ラクイラ・サミット、G8首脳宣言(気候変動、開発・アフリカ)(主要なポイント)」、外務省ホ-ムページ、2009年(平成21年)7月
[14]「COP16の結果について」、経済産業省、2011年(平成23年)2月