「それよりも自分はなんとか若いうちに厳しいところでやりたいんや」
この言葉は、本田が当時在籍していた名古屋グランパスの監督にストイコビッチが就任することが決まるタイミングでオランダからオファーがあり、ストイコビッチ監督にもとでプレイするのが楽しみではないのかと聞かれた際にものだ。
ストイコビッチのもとでプレイすることよりも、厳しい環境に身を置くことを望む、上昇志向の高い本田らしい言葉だ。当時の日本サッカー界では、代表や国際大会で活躍した選手が海外移籍するものという価値観があった。2005年のワールドユースでも梶山陽平の控え選手であった本田がそれを覆したのだ。
ガンバジュニアユースでは活躍出来ず、ユースには上がれなかった。ワールドユースでも控え選手の立場と本田が思い描くトップレベルの目標との間には絶望的な隔たりが存在した。そのギャップを埋めるべく、国際大会での活躍がないままオランダ、VVVフェンロに移籍し厳しい環境に身を置いた。
「レアル・マドリーで活躍する」という高すぎる目標を達成するためには手段を選ばない本田の意思の強さがあらわれている。本田が成功した要因の一つは「不可能を可能にする強固な意思の強さ」であるだろう。
本田の自分の成長のために厳しい環境に身を置きたいという姿勢はドラッカーの「人として得るべきところはどこか」に通じる所がある。
以下、ドラッカーの著書「非営利組織の経営」からの抜粋である。
成長するには、相応しい組織で相応しい仕事につかなければならない。基本は、得るべきところはどこかである。この問いに応えを出すには、自らがベストを尽くせるのはどのような環境かを知らなければならない。大きな組織か、小さな組織か。人と一緒か、一人か。締め切りは必要か、必要ではないか。どこかとの問いへの答えが、今働いているところではないということであるならば、
次の問いは、それはなぜかである。組織の価値観に馴染めないからか。組織に緊張感がないからか。そのようなとき、人は確実にだめになる。組織の価値観が自らの価値観に合っていないならば、人は自らを軽く見るようになる。
あるいは、上司が利己的なことがある。上司としての役目、部下を育て、引き上げる役目を果たさないことがある。こうしたとき、あるいは成果が認められないときには、組織を辞めるのが正しい道である。
この様にドラッカーは「成長するためには、自分の特性にあった、得ることがある組織に所属しなければならない」と語っている。本田はドラッガーの言葉と同じように、自分を成長させる場所を求め、オランダのチームに移籍した。
当時は、選手が国際的な実績を積んでから海外移籍することが常識とされていたが、本田は国際的な活躍のないまま移籍し、常識を覆した。
以下、ドラッカーの言葉だ。
「今日の常識が明日の非常識となる」著作「現代の経営」から抜粋する。
先進国について、おそらく世界全体についても、すでに一つのことが確実である。それは、根本的な変化の続く時代に入ったということである。あらゆる組織が変化のために組織されなければならない。もはや起業家的なイノベーションをマネジメントの枠外ないしはその辺境に位置づけることは許されない。イノベーションこそ、マネジメントの中核に位置づけなければならない。
そもそも組織の機能は起業家的たるべきものである。それは、知識を仕事、道具、製品、プロセス、さらには知識そのものに適用することである。
したがって、イノベーションの必要性を最も強調すべきは、技術変化が劇的でない事業においてである。医療品メーカーでは、製品の四分の三を10年ごとに入れ替えられなければ生き残れないことを知っている。
しかし、保険会社では、新商品の開発に自社の成長、さらには存続すらかかっていることを認識している者がどれだけいるか。技術変化が劇的でなく人目を引かない事業ほど、組織が硬直化する危険が大きい。それだけに、意識してイノベーションに力を入れることが必要である。
成熟化した先進国においては、常に変化することが確実な事実として受け止めなければいけない。変化するということは、現在の常識が非常識になり、非常識が常識にとって代わるということだ。成熟社会において、成果を上げ続けるには常識を覆すことが必要となるのだ。
この様に本田は、自分を成長させるため、成果をあげるために、ドラッカーの言葉、「人として得るべきところはどこか」そして「今日の常識が明日の非常識となる」を実践したのだ。
パート3に続く
光田 耕造
神戸市出身 明治大学農学部農芸化学科卒業
チャンスメディア株式会社設立 代表取締役社長就任
著作
「サッカー日本代表はドラッカーが優勝させる」(5月15日発売)
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