もしも武富士が奨学金を運営したら

本山 勝寛

またもや、奨学金問題をセンセーショナルなタイトルと偏った報道で煽る記事がネット上で拡散していた。ネットメディアBusiness Journalの「武富士以上…若者を食い物にする学生支援機構の奨学金、えげつない取り立ての実態」という記事だ。以下、一部を抜粋する。

機構は「奨学金貸与事業」の名の下、えげつない取り立てを行い、債務者からは「債鬼」と恐れられているのだ。
 Bさんは大学教員を夢見て、研究を重ねてきたものの、教員になるための競争も激化。非常勤講師で日々の生活費を食いつなぐ中、この十数年間(猶予手続き期間も含む)、合計381万6000円の奨学金の返済に追われてきた。精神不安定になって心療内科に通う日々もあったが、時には滞納しながらも返済計画をつくり、毎月5000円ではあるが奨学金を返済してきた。
 しかし、借金はなかなか減らない。というのも、返還期限の到来した未払い元金がある場合、その未払い元金に対して、毎年5%の延滞金(平成16年以前の第一種奨学金の場合。平成17年以降の第一種奨学金、または有利息の第二種奨学金の延滞金は年10%になる)が発生するのだ。返済はまず延滞金に、そして残額が元金に充当されるので、5000円では未払い元金はまったく減らずに、延滞金が増え続けるのだ。機構側は、「毎月3万2000円以上払ってほしい。そうしなければ元本が減らない」と催促する。(中略)
機構に融資をする政府や金融機関、債権回収をするサービサー、訴訟を担当する弁護士事務所が、生活費にも困窮する若者たちを食い物にし、奨学金制度が「貧困ビジネス」と化しているのだ。


そして、ジャーナリスト・三宅勝久氏の「あの武富士でもやらなかった頑なさです」という言葉を引用し、「武富士以上」「えげつない取り立ての実態」とタイトルをつけているわけだ。

以前にも、「奨学金はサラ金より悪質」という偏向記事が拡散していたので、変動で0.3%、固定で1%程度の学生支援機構の貸与奨学金が、年利15%ほどにもなるサラ金よりもいかに利率が低いか比較した記事を書いた。

今回の記事でも延滞金利率5%を問題視しているが、たとえば、倒産後の武富士を承継した「日本保証」の場合は延滞金20%だ。むしろ、延滞以前の通常の年率も4.6%~20.0%と、上限20%を明記している。5%と20%がどのくらい違うかというと、仮に200万円を延滞してしまった場合、5%の場合は年10万円、20%の場合は40万円と、当然だが4倍もの差になる。

ちなみに、武富士ブランドを運営する日本保証(旧日栄)の取り立て方法だが、借金が返せない債務者に対して「腎臓や目ん玉売って金作れ!」などと電話などで脅迫まがいの取り立てを行い、債務者がそれでは死んでしまうと言うと、「借金も返せないような奴は死ねば良い」とまで言われた、とのこと。このことは、Business Journalも詳しく記事にしているので知らないわけがない。

もしも、「武富士よりもえげつない学生支援機構」が潰されて、日本の貸与奨学金がすべて武富士や日本保証といった消費者金融に任せられたなら、それこそ年利15-20%を貪られ、延滞したら「目ん玉売れ!」と脅迫されるようなことになりかねない。

前々から繰り返し書いているが、奨学金制度にも延滞時の回収方法や、貸与前の十分な説明の徹底など改善の余地があるのも確かだ。ただ、学生支援機構による低金利または無利子の貸与奨学金によって、かなり多くの学生が高等教育の機会を得て、格差是正の機能を果たしていることも事実だ。私自身も、親が無収入だったが、奨学金のおかげで東大・ハーバードに通うことができた。また、大学授業料を下げる努力や、授業料免除の拡充、奨学金返済分の所得控除、私大の数や定員の抑制など、教育政策全体を見直す必要もある。そういった全体像の分析や現実的な提言なしに、偏った煽り報道ばかりしていても事態は改善されない。

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学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。