ブッシュ前米大統領の名誉回復 --- 長谷川 良

アゴラ

独週刊誌シュピーゲル最新号(6月16日号)に非常に面白い記事が掲載されていた。テーマは米政界の動きだが、任期時代、不人気だったジョージ・W・ブッシュ前大統領(任期2001年1月~09年1月)の名誉回復が進んできたというのだ。昨年の調査では、大統領時代の8年間の実績を評価する国民が47%にもなったという。2008年の調査ではその半分にも満たなかったことからみても、米国民の前大統領への評価が著しく改善してきたことが分かる。


▲ブッシュ前大統領の名誉回復について掲載した独週刊誌シュピーゲル最新号


ブッシュ氏(67)のカムバック現象を実証する例として、ブッシュ氏の弟、元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏の大統領選出馬が現実的テーマとなってきたことが挙げられている。シュピーゲル誌記者は「数年前まで、ブッシュ氏の弟が次期大統領選(2016年)に出馬するといっても、多くの米国民は相手にしなかっただろう。米国民はブッシュ家出身の大統領はもうコリゴリだからだ」という。

それが変わってきたのだ。今では共和党からジェブ・ブッシュ氏と民主党のヒラリー・クリントン女史(前国務長官)の戦いを予想する声が高まってきているのだ。すなわち、ブッシュ家から3代目の大統領が誕生する可能性について、国民は現実的に受け止め出してきたわけだ。

シュピーゲル誌記者は、ブッシュ氏のカムバックについて、同氏の後継者大統領、オバマ現大統領の不甲斐なさとオバマ氏への国民の失望が反映していると分析する、大統領時代、アフガニスタンとイラクに約200万人の米兵士を戦地に送り、国家財政を破産に追い込んだブッシュ氏を酷評してきた米国民がここにきて「ブッシュ氏の時は何のために戦っているかがはっきりしていた」と考え直しているというのだ。

それに対し、アフガニスタンとイラクから米軍を撤退させ、就任早々と「米国は世界の警察官になる考えはない」と宣言し、シリア内戦でオバマ大統領が軍事介入を躊躇している時、ロシアのプーチン大統領が素早くロシア主導の対シリア路線を発表した。ウクライナ紛争でもプーチン氏の外交政策に翻弄されるなど、昔の「強い米国」を知っている国民は、オバマ政権の外交オンチに歯がゆい思いを抱いているだろう。そこで国民の間から「ブッシュ時代のほうが良かった」といったため息が飛び出してきても不思議でないわけだ。

ブッシュ氏はホワイトハウスを去った後、公の場に出ることを出来るだけ避け、もっぱら絵描きに没頭している。世界の政治家の肖像画を描いた個展を4月、ダラスで初めて開いたばかりだ。ブッシュ政権時代に厳しい批判を浴びせてきたヒラリー女史もブッシュ氏について、「タレントがあり、知性的だ」と評価する一方、その気さくな性格を称えているという。

退任後、評価を高めた米大統領は多くはいない。最近では現職時代にピーナツ外交と冷笑されたジミー・カーター氏(1977年1月~81年1月)が退任後、人権外交に乗り出して2002年にノーベル平和賞を受賞するなど活躍している程度だ。「歴代米大統領の中で最悪の大統領」とまで酷評されたブッシュ氏は退任後、オバマ政権を公の場で批判することを避ける一方、テキサスのアトリエで絵を描きながら自身の名誉回復を果たそうとしているのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年6月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。