上司の武勇伝を子守唄にしろ! --- 尾藤 克之

アゴラ

ビジネス調査で、武勇伝を語る上司は「嫌な上司の特徴」の上位にランキングされています。上司の武勇伝にはニーズが存在せず、部下はそんな話を聞きたいとは思っていないのが理由とされています。

ところが上司の武勇伝を聞くことは、上司との人間関係を良好にして仕事を潤滑させることが少なくありません。デキるビジネスパーソンの多くは上司の武勇伝を聞き、役立ちそうなエッセンスを吸収します。


■上司の自尊心をくすぐる

上司になる人物は、何かしら過去の栄光、いわば武勇伝があります。その武勇伝をわざと聞くことで、上司の評価を上げるテクニックもあります。

ただし、いきなり「武勇伝を聞かせてください!」とお願いするのでは、芸がありません。お酒の席で聞くにしても、この聞き方では直球過ぎて、上司も戸惑うでしょう。わざわざ武勇伝を聞くのは、上司の自分に対する評価を上げるためなのです。どうせ聞くならもっとも効果が高くなる聞き方をしなければいけません。

私ならこう聞きます。「課長。先日、○×商事に営業にいったとき、もうちょっとのところで商談が不成立になってしまいました。課長は営業のスペシャリストだったと、部長から聞いたのですが、今後の参考のために若いころの営業列伝をお聞かせいただけませんか?」

ここのポイントは、上司よりも上位の役職者が上司をほめていたことをさりげなく伝え、さらに自分自身の「今後のため」に上司の武勇伝を参考にしたいと伝えている点です。上司に「学ばせてください」とお願いしているのですから、頼まれた方もこころよく受けてくれることでしょう。ただ「教えてください」と依頼するのではなく、自尊心をくすぐることも忘れてはいけません。

■効果的な武勇伝の聞き方と使い方

わざと武勇伝を聞くのと同じ理屈ですが、「上司! 教えてください!」という定型パターンは使い勝手が非常にいいものです。理屈は先ほど説明した通り、上司の自尊心をくすぐるからですが、このパターンはいくらでも応用が利くことに加え、いざという場面での「返しテクニック」としても使うことができます。

たとえば、チームの売り上げが足りず、責任を追及されそうな場合、このテクニックを使えば、危機を脱せる可能性もあります。「課長、今月の目標達成が自分のせいで厳しい状況になってしまい、申し訳ございません。最後まであきらめずに挽回するつもりでいます。そこで、課長に教えていただきたいのですが、自分にかけているものは何でしょうか。今からでもそれを直して、少しでも目標達成に近づけるよう、努力したいんです」
部下がこんなアピールをしてきたら、課長としては悪い気はしないはずです。

ここで課長から具体的に悪い点を指摘されたら、それを直そうとしている点をアピールすればいいですし、「そんなこと言う前に、営業に行け!」と身もふたもないことを言われたら、それはそれで必死に営業している姿を見せればいいのです。ようは「自分はがんばっています」「課長から学びたいのです」といったことをアピールすることで、上司を自分の味方につけるのです。定型句をいくつかご紹介しておきましょう。

●自分が失敗したときは「すみません」「自分のせい」「教えてください」
「すみません、課長。今回は私の不注意でこんな事態をまねいてしまいまして。課長はこんなとき、どんな対処をしてきたんですか。後学のために教えてください」

●お酒の席でアピールしたいときは「うまくいかない」「持ち上げる」「教えてください」
「私はどうも最初の一言がうまくいかないんです。営業マンとして名高い部長に、ぜひ、今度教えを乞いたいんですが……」

●上司が得意げに何かを自慢したときは「さすが」「ダメ」「教えてください」
「部長、さすがですねぇ。僕なんかまったくダメなんですよ。今度、みっちりコツを教えてください」

ちょっとしたコツをつかめば、こういったお世辞は立て板に水を流すように簡単に口から出てくるものです。

■読者への示唆

私たちが多くの人と人間関係を潤滑にして過ごすためには、多くのテクニックも必要とされます。その一つがゴマすりでしょう。今後の組織内において、生き残っていくためにはビジネススキルではなく、コミュニケーションスキルが大切だということです。ゴマすりも極めれば、立派なテクニックでありスキルになるのです。

尾藤 克之
経営コンサルタント