6月24日夜(ウィーン時間)、ブラジルのワールドカップ(W杯)グループ戦D組の第3ラウンドのウルグアイ対イタリア戦を観戦した。当方は知り合いが多いこともあってイタリアを応援していた。グループ戦を勝ちぬくためには、イタリアは引き分けで十分だが、ウルグアイは勝利しなければならない。必然的に、ウルグアイは攻撃を仕掛け、イタリアは伝統的に強い守備を一層固めて試合に臨んだ。結果はウルグアイが1─0でイタリアを破り、Dグループ上位2位内に入った。
今回のW杯では、イギリス、スペイン、イタリアといった欧州の強豪チームがグループ戦で敗退するという番狂わせが多い。W杯を中継放送中のドイツ公営放送は「欧州チームは南米チームの勢いに押されている」と指摘していた。幸い、オランダ、ベルギー、フランスといった欧州チームは勝ち上がった(ドイツもほぼ確実)。これからチリ、コロンビア、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイなど南米強豪チームとの一騎打ちが待っている。
ところで、ウルグアイ対イタリア戦前半は0─0に終わり、後半に入ると、ウルグアイが必死の攻撃に出てきた。引き分けでは予選通過できないから当然だ。ウルグアイでは国民のW杯への期待は高い。グループ戦敗退となれば大変だ。そのように考えていた時だ。英プレミアリーグのリヴァプールで活躍し、今季最優秀選手と得点王を獲得したFWのスアレス選手が後半80分、ゴール間際でイタリアのDFキェリニ選手の肩を噛んだのだ。キェリニは主審に噛まれた肩をアピールしたが、無視され、試合は続行された。
ビデオでみると、キェリニ選手の肩には噛まれた痕が鮮明に残っていた。主審は本来、スアレス選手にレッドカードを言い渡さなければならなかったわけだ。イタリアはウルグアイの激しい攻撃を必死に耐えていたが、試合終了間際にウルグアイにゴールを決められてしまった。主審がスアレス選手にレッドカードを与えていれば、試合の流れは当然変わっただろう。今回のW杯では主審のミスで試合が決定するケースが少なくない。
当方は過去、サッカー選手が試合中、相手選手に噛みつくシーンを見たことがなかったので、スアレス選手の噛むシーンには正直驚いた。ボクシングの世界ヘビー級戦でマイク・タイソンが相手ボクサーのホリフィールドの耳を噛むといったハプニングがあったことは覚えているが、サッカー選手が相手を噛む、といったことは考えられないことだ。ただし、スアレス選手は過去、2度、相手選手を噛んだ前科があるのだ。
独公営放送で試合を解説するオリバーカーン氏(元バイエル・ミュンヘンのゴールキーパー)は「彼はこれで3度、相手選手を噛んだことになる。スアレスはなぜ噛むのかを精神分析する必要があるだろう。ウルグアイ国民の彼への期待が余りにも大きい。そのうえに、さまざまなストレスがあるのだろう。それらが限界まで溜まると、そのエネルギーを何とか放出しようとする衝動が高まるはずだ。スアレスの場合、相手選手を噛むという衝動的行動として表れてくるのだろう」と分析する。
ちなみに、FIFAは目下、スアレス選手に対する制裁を協議している。初犯でなく、3回目ということもあって、「最悪の場合、2年間の試合出場停止処分も十分考えられる」という。英紙デイリー・テレグラフは「スアレスを英プレミアリーグから追放すべきだ」と助言しているほどだ。
同日、グループ戦C組で日本チームがコロンビアに1─4で完敗し、グループ戦敗退が決まった。サポーターが試合後、ゴミ拾いをしたという記事を読んで、「日本人は選手もサポーターも悪童スアレスとは全く逆だな」と感じた。同時に、スアレスのような破格の野性的な選手が日本サッカー界に生まれてくるだろうか、と考えさせられた。
日本チームは姿を消したが、ブラジルのW杯もいよいよKO戦に入り、南米チームと欧州チームの覇権争いが始まる。当方のTV観戦にも熱が入ってきたところだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。