プーチン氏を赤絨毯で迎えた理由 --- 長谷川 良

アゴラ

報告が遅れたが、アルプスの小国オーストリアのウィーンにロシアのプーチン大統領が6月24日、実務訪問した。数日前からプーチン氏のウィーン訪問がウィーン子の大きな話題だったので、読者に報告する。

プーチン氏のウィーン訪問は公式訪問ではなく、6時間余りの短時間の実務訪問だったが、ウクライナのクリミアを併合したプーチン大統領に対して欧米諸国が結束して批判し、対ロシア制裁を実施中の時だけに、「なぜ、オーストリアは欧米諸国の結束を崩すような一方的な外交をするのか」といった批判がEU諸国内から聞かれる。換言すれば、国際社会で孤立化してきたプーチン氏にどうして赤じゅうたんを敷いて迎えたかだ。


プーチン氏を招待したオーストリアのフィッシャー大統領は「欧米とロシアの関係が険悪している時だけに対話がこれまで以上に重要となる」と懸命に弁明。クルツ外相は「わが国はEUの対ロシア制裁を支持している。クリミア併合でもはっきりとモスクワを批判してきた」と述べる一方、「ウィーンは冷戦時代から東西両欧州の橋渡し的役割を果たしてきた。わが国の伝統的な外交だ」と説明し、同盟国の理解を求めた。それに対し、スウェーデンのビルト外相は「ロシアとの対話交渉の窓口はEU機関だ。加盟国の一国が勝手に対ロシア外交を行うものではない」と不快感を表明している。

プーチン氏のウィーン訪問のプロトコールによると、同氏は同日午後2時過ぎ、ウィーンの空港に到着するとホーフブルク宮殿に直行し、フィッシャー大統領の歓迎を受け、実務対談後、ファイマン首相やクルツ外相などを交えや昼食会。その後、経済商工会議所で講演、ウィーン市内のロシア兵追悼碑に献花、そして欧州安全保障協力機構(OSCE)事務局長とのショート会談等をこなし、同日夜、帰国の途に就いた。

プーチン氏の訪問のハイライトは、ウクライナを経ず欧州にロシアのガスを輸送するサウス・ストリームのガス・パイプライン建設に関する合意書の調印式だったが、調印式の場にはプーチン、フィッシャー両大統領は参席せず、関係会社の責任者が行った。EU側が同パイプライン建設について難色を示している時だけに、両大統領参席の華々しい調印式は不味い、という配慮がオーストリア側にあったからだという。

オーストリア側は「プーチン氏のウィーン滞在中、ウクライナ問題の和平に関する意見の交換が行われた」と説明し、パイプライン建設に関する調印式はあくまでサイド・イベントに過ぎないと強調したが、ロシア側は「プーチン氏のウィーン訪問の主要関心事はガス・パイプラインの調印だ。ウクライナの和平問題については、ウィーンで話す必要はない。ウクライナの当事者同士が話せばいいことだ」と述べている。

ちなみに、オーストリアとロシア両国の経済関係は良好だ。昨年のオーストリアの対ロシア輸出総額は34億8000万ユーロで前年比で10.4%急増。輸入総額は31億8000万ユーロだった。オーストリア企業はロシアに対して85億ユーロ相当を投資している。ソチ冬季五輪大会誘致プロジェクトでもロシア側から多くの商談を受け取った。なお、オーストリアはガス供給の約60%をロシアから輸入している。

いずれにしても、オーストリアのフィッシャー大統領やクルツ外相は「ウクライナ問題解決への橋渡し」を強調し、プーチン氏のウィーン訪問の意義を強調してきたが、その説明通り信じる欧州同盟国は残念ながらいない。同国日刊紙ザルツブルガー・ナハリヒテンは「扱いが難しいゲスト」とプーチン大統領を評する一方、同大統領を赤絨毯を敷いて迎えたホスト国の後ろめたさについても言及していた。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。