ウェアラブル端末の盲点

大西 宏

話題が大きい割に、まだ試行錯誤の状態で本格的な普及を感じさせる切り口が見えないのがウェアラブル端末、とくにスマートウォッチです。「Android Wear」ベースのスマートウォッチがサムスン電子、LG、Motorolaから発売されることが発表されました。テレビ番組でも取り上げられ、出演者からの感嘆の声も聞かれましたが、どうなんでしょう。個人的にはあまり身につけようという気持ちが湧いてきません。

Android Wearスマートウォッチ三機種を比較する: Moto 360、LG G Watch、Samsung Gear Live – Techcrunch


その理由は、機能が想定内のものでしかなく、感動させてくれるような目新しい用途が示されておらず、その割に身に付けるもののデザインとしても魅力を感じないからです。
「Android Wear」で実現できることは、GIGAZINEさんがまとめてくれていますので興味のある方はご参照ください。
世界初「Android Wear」搭載のスマートウォッチ「Gear Live」「LG G Watch」「Moto 360」が発表される – GIGAZINE

デザインに対する嗜好はさまざまなので、いいじゃないか、カッコいいと感じる人もいらっしゃる0とは思います。第一の問題はそこです。ウェアラブル端末で、よほどのメリットがない限り、デザインに対する嗜好の多様性の罠がまっているということです。それにスマートフォンをポケットやバッグからださなくとも、さまざまな情報が確認できる便利さとはひきかえに、充電のわずらわしさが加わります。

個人的好みの問題から言えば、Wiredが紹介していたスイスのWithings社がリリースし、フィットネス用アクティヴトラッカーのほうが魅力を感じます。まるで普通の時計ですが、装着すれば、歩数や睡眠時間を感知し、ユーザーの設定次第では、消費カロリーも計算してくれ、データをアプリ上で管理することもできるというものです。充電も「1年間はもつ」ということなので煩わしさがありません。
ウェアラブルデヴァイス「Withings」がデザインに「腕時計らしさ」を求める理由 ≪ WIRED.

そしてWiredが指摘するように、ウェアラブル端末は、デジタルな機能が乗っかれば、それで生活者が飛びつくとは限らないのです。既存産業を創造的に破壊するイノベーション・パワーがまだあるとも思えません。

「テック企業はこれから、腕時計やメガネなど、いわゆるファッションカテゴリーのアイテムにおいて(既存の産業と)競合していくことになる。その業界にいるのは、数こそ少ないけれど多様性に富んだファッション意識の高い消費者たちだ」

実際には見ても触れてもいないので、なんとも言えないのですが、少なくとも機能的には面白そうだと感じるのが、昨日のメルマガで取り上げたSONYのリストバンド『SmartBand SWR10』です。たんにスマートフォンの機能を拡張する、あるいは補うというだけでなく、LifeLogという新しい用途やコンセプトを提案したウェアラブル端末です。
競争の次元を変える その2 :大西宏のマーケティング発想塾 :

「歩数や消費カロリーや睡眠時間などのフィジカルアクティビティや、観た映画、聴いた音楽、話した時間などのエンターテインメントアクティビティを記録するだけでなく、感動した瞬間や楽しかった瞬間なども記録できる」という生活そのものを記録してしまおうという提案が新鮮です。
SmartBand SWR10 | ソニーモバイルコミュニケーションズ

一回の充電で5日もつというのもいいと思うのですが、残念なことに、ホームページからは、生活を記録するという新しいコンセプトがまだ未消化で、開発の「想い」もそれでどんな世界が待っているのかの「伝え方」もこなれていません。また、今持っているスマートフォンとは連携しないというのはましてやと感じます。

ウェアラブル端末は、まだまだ機能を追求している段階で、技術見本市みたいな感じだというのも、ウェアラブル端末が生活のなかに浸透していく切り口としては遠回りしているように見えてきます。生活者は機能を買うのではなく、目的や体験を買うので、そこも盲点です。

シェアでは、サムスンが2014年第一四半期のスマートウォッチ市場の71.4%のシェアを占めているとはいえ、この期間での全スマートウォッチの出荷台数はまだ70万台ということですから、まだまだ試行錯誤から抜け出していないということです。

ウェアラブル端末が新しい世界を開くとすれば、むしろ、ウェアラブル端末そのものではなく、つながった先のしくみのほうだと思います。そうすればこれまでにない用途も生まれてくるのでしょう。医療のしくみとつながり、健康状態をチェックできるものとなれば、またウェアラブル端末の性格が異なってきます。

そう考えると、ウェアラブル端末の未来を開くのは、ハイテク企業ではなく、サービスを提供する企業なのかもしれません。